タイトル未定 五拾一

(何とかせぬか!童!)

芸能人の如くもみくちゃにされ、頭を撫でられたり耳を触られたりと異例の歓迎っぷり。知らない人達がパーソナルスペースにいるというのもあるが、人が密集しているので段々熱くなってきた。

「んあー!!」

全身に炎を灯し、両腕を振ってなんとか払い除ける。幸いどこにも引火してはいないらしい。各々驚いて後ずさる。炎は何故か灯った。意思を持ってやってはワケではなく、払い除けてからあぜんとする。空中の炎が消えるのを待って

「すいません…。あまりこういうは慣れていなくて…。」

頭を掻きながらとりあえず謝りを入れる。

「…と、とりあえずようこそ。皆キミが来るのを待ってたよ。…何せ5年振りの新入りだ。早速歓迎会といこうか。」

そう言うのはスーツを着た、平たく言えば茶髪の今風の青年。年齢は同じくらいだろうが、そこはかとなく芯の強さを感じさせる。ロの字に作られたテーブルの一席に案内されたので素直にそこに座る。冷えきった椅子が少し気持ちいい。

「よし、これで全員だな。早速始めるとしよう。」

ここで全員の事を言っているとキリがないので割愛するが、この青年と自分以外には7人程がこの部屋にいる。

「始める前に、先の任務で殉死したヤクタに敬意と黙祷をしよう。」

この時、ヤクタって誰だ?と顔に書いてあったのかもしれない。茶髪青年が説明してくれる。

「ヤクタは5年前、キミと同じような感じでここに入ってきたヤツでな…。ココじゃ、トップクラスの実力だった。だけどアイツでも敵わないヤツがいた。キミも見ただろう…?」

「(穢じゃのう。)穢…ですか?」

油圧で動作する機械のようにゆっくりと口を開く。

「キミはそう呼ぶのか…。」と青年は何かを思ったのか、関心を持っているかのような返答をする。

「アイツらさ、人を食うんだよ。美味しそうにさ。当然、ヤクタもアイツらからすれば人間。ヤクタは善戦虚しく食われちまったんだ。」

「おい!軽々しく言うな…!」

ニット帽を被った少年?がそう言うと青年は激昴し、少年に銃を向けてしまう。血が上りやすい性格なのだろうか。突如として始まってしまった修羅場に、どうすることもできず。出来ずとも緊張状態で先を見守ることにする。

「食われたヤクタはヤツに侵食されちゃってね。それで自我を失ったのか俺達を襲ってきてさ。…それで、タテナシの姐さんがやむを得えまいってことで…。」

「それ向けるの止めてくれない?」と銃を下ろさてから目を見開いて少年は静かに言った。確かに。

「殺したの。」と。

(穢に侵食された者がいたとはのう…。タテナシの選択は正しいのう。)

「いちおー世間体では殉死にしてあるみたいだけどね。」

と言うと少年は何事もなかったように携帯ゲームで遊び始めた。青年も空気が汚れたのと自分がすぐ激昴したのを反省したのか、ため息まじりに銃をしまう。

「すまない。俺達なりに歓迎しようとしたのだが…。皆もすまない。仕切り直しといこう。」

青年の号令で、改めて歓迎会が始まる。

ヤクタ、という人はどのような死に方をしたのか。むごいに違いない。笑い話のようにあの少年は言った。でも。仲間が死ぬって、俺なら耐えられない。たとえ変わり果ててもその人はその人しかいない。殺せと言われたらどうするのだろうか。

(童…。)

突然、ぽっかりと。心に穴が空いた。黙祷もしっかりとした。知らない人でも死んでは欲しくない。そうならない為にも。自分に出来ることは何なのか。

コップに注がれた烏龍茶を一口飲み、やたら盛り付けが豪勢なオードブルのプチトマトを食べながら、そんな事を考えていた。

#小説


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