タイトル未定 五拾五

拉致された、というと語弊がある。タテナシさんに拉致されて色々あった夜から数える事2回目の夜がやってきた。静かな白い天井が視界いっぱいに広がる。起きると時間を確認するのが癖なのだが、寝ぼけまなこに時計を探してもそれらしき物は見当たらなかった為、空の色で時間を推測する昔ながらの方法を取ることにする。

「ん゙ーっ」と伸びを1回。欠伸を1回。自分を中心に流れていた遅い時間の流れが、次第に今の時間の流れに合流していく。この起床後の行動は生まれた時からのルーティンだ。

「起きたはいいものの…」指示待ちという指示しか受けていない。「その後」というか「痒い所に手が届かない」というか。誰か呼びに来るのだろうか…?足元がさわさわしてきたので足袋を履き、御神刀を手元に持ってきて「いつでもいけるぜ!」的な体裁を整えておく。

(童、此度の夜はちと嫌な感じがする。生暖かい風じゃ。)

(嫌な気持ちとは…?)

(気のせいじゃといいのだがのう。)

気になる言い方をしたと思ったらそれから黙りを決め込んでしまった。

と、このタイミングでドアからノックが聞こえる。出来すぎてるかもしれないがノックはノック。

「私だ。会議室まで案内するから付いてきて欲しい。」

色々と教えてくれたあの青年の声だ。男性らしく低くもしっかりと抑揚のある声でそう言うので、それに応じる為に部屋から出る。尚、ドアロックは内側からなら何もせず開けられるみたいだ。プライバシーは確保されているらしい。青年は紺のスーツを着こなし、ワイシャツにはホルスターに入った拳銃を装備している。

「準備万端、といった所だな。行こうか。」

(それほどでもないけど…。)

脳内で頭を掻く自分を妄想しながら青年の後に続く。すれ違う職員は口々に「お気をつけて」と声をかけてくれる。優しさというか社交辞令。帰ってこない人もいるに違いない。

詳しい道順は社外秘というか、ただ後をついて行っただけなので覚えていない。

会議室に行くと、今までのメンバーが集まっていた。プロジェクターとスクリーン、机には大きな地図と警察映画も土下座する超王道セットである。タテナシさんに目配せすると「待っていた」とばかりに目が合う。緩んだゴムがビーンと張るような空気。如何にもこれから何かある、そんな空気は嫌いじゃない。

「全員揃ったようだな。これよりブリーフィングを始める。」

「おい」と言うと、スズナさんが壁まで小走りで電気を消しに行く。スクリーンに映し出された青い画面だけが唯一の明かりだ。

「今日、お前達に行ってもらうエリアは私の知ってる中ではかなり危険な方だ。殺る許可は降りているとはいえ各自、間違った選択や行動は控えろよ。」

会話の後ろで、テンポよくキーボードとマウスを操り、スズナさんがプロジェクターに地図を映し出す。一部がズームアップされ赤く点滅する。今回の巡回エリアはそこらしい。

これから始まる何かに。この場の空気とは真逆にドキドキして今にも、駆け出したくなる自分がいた。

#小説






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