タイトル未定 六拾一

「生きる、奴ら、憎い、肉体、肉?、食べる、また、生きる、やる、事、やる」

ゼェー…ゼェー…と単語単語で自己語りを始める。見たところ目と思われる部分は見当たらないが、体長の違いに半歩ほど後ずさりしたくなる。血溜まりの中で唾液を垂らしながら2人を品定めでもするかのように頭を不規則にクネクネと動かす。

「オマエら、食べる、美味そう、チカラ、欲しい…!」

半芋虫は口をグパアと開きその長い胴体を伸ばし、まさに噛み付こうとしてくる。

「千狐君!」

コンマ数秒。2人の間に割って入るかのように繰り出された攻撃を躱す。難なく躱すイツムネさんとは裏腹にお狐様のアシストがなければ今頃…地面を転がった後、立ち上がる。やつは頭をゆらゆらさせている。余裕、といった感じなのだろうか。

(何を呆けておるのじゃ!大たわけ者!)

「千狐君、大丈夫かい?」

「受け身は…取れてた見たいです…!」

御神刀を杖に立ち上がる。特撮ヒーローばりに転がっただろうけど痛みは不思議とない。頷いたイツムネさんは依代からクチナワを呼び出す。芋虫、蛇、刀。ある意味長物が揃ってしまった。半芋虫はというと、食欲とは名ばかりなのかまったく手を出して来ない。クチナワはそんなに大味なのだろうか。

「お願い…!」とイツムネさんの号令でクチナワが半芋虫にシュルっと飛びかかる。目にも止まらぬ速さで間合いを詰め、首根っこに噛み付こうと牙をむき出しにする。

「蛇、嫌い、人、好物」と、言ったのだろうか。クチナワが到達する前に半分胴体をムクりと持ち上げたかと思うとぶら下がった腕で思いっきりクチナワを叩き落とし、轟音と共に土煙があがる。

(今じゃ!ちと借りるぞ!)

お狐様にシフトした体はお狐様の意思で動いていく。躊躇いなく刀を抜き、鞘をほん投げ、顔を覆っているイツムネさんの横を、韋駄天と言わんばかりに素早く駆け抜け半芋虫との間合いを詰めようとする。わずか1歩で刃の届く間合いまで入る事に成功する。

(速い…!あれは、千狐様か…!)

「「もらったわいのう!」」

スピードの余力を生かして斬ろうとするも、近くで見ると太い腕だ。真正面から攻撃をもらうも両腕をバッテンにして防ぎ切る。数メートル飛ばされるも、倒されずこれに耐える。

「千狐様…!」

「「クチナワは事切れてしまったようじゃのう。」」

ザザー…と滑りながらイツムネさんの横に戻るお狐様。

大きく割れただアスファルトの真ん中で、胴体がボッキリ折れ絶命しているクチナワ。程なくして燃え始め、跡形もなく消えてしまった。地面深くを走る水道管が少し見て取れる当たりかなりの怪力の持ち主のようだ。

「まだまだ…!いくよ…!」

イツムネさんは依代からクチナワをさらに呼び出す。その数4体。どこかのアニメでこういうのを沢山出すのは体力気力がいるってやってたけど邪推なのだろうか。尤も、今は俺の意思でどうこうできないのだが。
クチナワは半芋虫にシュルルシュルルと舌を出し入れしながら威嚇をしている。

「~!、蛇!、嫌い!」

半芋虫がガラガラとアスファルトの道を壊しながらイツムネさんに突進していく。石橋を叩いて渡るの逆バージョン。意味合いはもちろん違うけど。これに倣いクチナワ達も突撃。1体腕に掴まれてしまうものの、残りのクチナワは体に噛み付くことに成功する。2本の鋭い牙が体に刺さったのか、声ではない声で呻き、クチナワを振り落とそうとする。

それを見たお狐様。先ほどと同じスピードで距離を詰めたかと思うと飛び上がり、クチナワを掴んでいる腕を付け根から容赦なく切り落とす。そして空中で体を入れ替え、半芋虫の側面に思い切りキックをお見舞いしたではないか。キックをされた場所は足袋の形に凹み、そのデカい図体はコンクリートの塀を崩しながら地面に倒れて行く。

「すごい…!」

「「このくらいで斃るわけなかろう…」」

まだ土煙が晴れない中、腕に掴まれていたクチナワを、お狐様は助けてあげる。ササッと頭を撫でるとクチナワはイツムネさんの元に戻っていく。

モクモク…と土煙が段々晴れると傷口から体液を流し蹴られた箇所が歪んだ半芋虫がゆっくりと顔を上げている所だった。呼吸が乱れていない所からまだピンピンしておるのうとお狐様は心の中で呟く。クチナワはさっきの衝撃で消えてしまったらしく、噛み傷だけが見て取れた。

「肉、食べ…たい、だけ、なの、邪魔、何で、する」

「人間は人間を食べない。そういう事だよ。君には難しいかな。」

この言葉を受け、少しの間黙るも後に収拾がつかなくなったのか、訳の分からない言葉を言いながら混乱しはじめこちらに猛スピードで接近してくる。

「「これほどの力があるとはのう…!」」

イツムネさんは手に持っている依代に目をやる。普段の依代とは違う依代がある。それも嫌に目立つというか、そういう作りなのだから仕方ないけど「俺を使え」とばかりに手中で主張している。

体力的にも呼び出せる数には見当がとっくについている。この子を使うか、クチナワで従来どおりに行くか。

「「んらあ!」」

突撃するお狐様を見て、イツムネさんは覚悟を決めたのである。

#小説



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