タイトル未定 六拾三

「「この気配…久しい…久しいのう…。」」

恐らく事切れただろう青白い小山をを背にニイッと犬歯を剥き出して笑う。先の攻撃で出来た凹みの真ん中、少し息を整えるイツムネさんの足元にクチナワとは明らかに異なるヤツがお狐様の視界を通して入ってきた。しかし「同種」である。白い体毛と紅い眼を持ち尖った耳を持つそれはどう見ても「狐」そのものではないか。

「…何か感じるから依代越しに主張して、いざ出てみたら…相変わらず派手にやるな、千狐よ。」

器用に口をパクパクさせながら、いったいどこからそんな声を出しているとばかりに透き通った声で優しく語る第2の狐。話し方からしてお狐様と縁があるのだろうか。

「「おお、紅、久しいのう。」」

紅(コウ)と呼ばれたその狐はお狐様に負けるとも劣らずとも神々しい姿であった。お狐様の狐姿をまだ見たことはないが。それに、こんな狐を呼び出してしまうイツムネさんもイツムネさんで…って感じである。両狐は互いに近寄りお互いの顔をもっと近くで眺め合う。

「…この青年に憑依しているのか。千狐ほどのチカラがあれば狐のままでも容易いだろうに。」

「妾も妾で御神刀に身を縛られ、色々あったのじゃ。それに妾は奇を衒う性分でのう。郷に入ればなんとやらじゃわい。」

「…変わらないな。相変わらずで安心した。」クスッと微笑むと紅はお狐様の後ろで燃えたぎるものに目をやった。

「しかし、土地神としてはまだまだだな。自分の土地とはいえ、こんなにも荒らしてしまったのだ。それに、後ろのヤツはまだ死んではいない。チカラだけはあるのだがな。千狐はいつも詰めが甘い。」

コンクリート塀がガラガラと音を立てる。文字通り「苦痛!」な顔をした半芋虫が全身を火だるまにしながらも、よろけもせずに三度立ち上がったのである。もし地獄があるならば、子供臭い喩えだが、そこに住む怪物のようにハッキリと怖く禍々しいビジュアルに変貌を遂げていた。

「イツムネよ。久しぶりの現世、存分に暴れてもいいな?」

紅も紅でお狐様と一緒じゃねぇか。お友達のお庭だから遊ばせて!って感覚なのかな。後片付けは誰がするのやら。(こういう時、いつもおちゃらけるというか斜め視点でギャグめいた考えをしてしまう。)

「ぜんぜんいいよ…!アイツを殺らないといけないからね…!」

その返答に犬歯をニイッとして応える紅。やはり、というか完全同種である。

もう人間の言葉を発することもままならない半芋虫は何を考えているのだろうか。人間で言えば100m走スタート直前のアスリートのように、アドレナリンドパドパで痛みを感じていないのだろうか。仮にヤツが陰でお狐様が陽だとするのならば、あの炎は何にも変えられない痛みがある事は確かだ。前に「チカラを持つものはそれ相応の責任と覚悟をもつべきだ」みたいな言葉を聞いた事があるが、誰が言ったものか。

半芋虫も後がない事をとっくに悟ったのか背水の陣。その禍々しくも所々燃え、焼けた上半身をえいと持ち上げ構える。お狐様に体を貸す前に見たあの噛みつきがよみがえる。間合いに入ったところをガブリと言った戦法だろうか。相手を加味すると安直と思えなくもないが「お互い」現代に生きてはいないモノ同士何が起こるやら、ここにいる全員は知る由もないだろう。

「「ほう!」」

やはりそう来たか!とばかりに繰り出された噛みつきを躱す。ムキになっているのか、デタラメに繰り出される攻撃もお狐様の耳には1μもカスってはいない。子供を弄ぶというか、少々馬鹿にしている動きで躱す中、予想外の一撃を貰いこれを防ぐも体勢を崩されてしまう。

「「南無三!」」

御神刀で立て直しを図るも、多腕(ヤツの場合)な半芋虫は別の腕でお狐様(俺の腹)をグーで殴り、ジャングルジムへ殴り飛ばしてみせた。俺の痛覚にも鉄がぶつかる感覚がハッキリと伝わりその痛さに顔をクッチャンクチャンに歪めてしまう。

「「やるのう…。しかし、妾はこれほどではまだ斃らぬ…!」」

中央が歪んだジャングルジムを背に。驚きと期待を顔に出さないイツムネさんと、無言で見守る紅をよそにお狐様はまたも炎を作るまいと、御神刀を砂場に放り気をこめ始める。

「イツムネよ。私も千狐の後に続く。オマエの体力をかなり奪うかもしれぬ…。依代の大元であるオマエの気が失われては私は現世に姿を留めてはおけぬのだ。心しておけ。」

「色々と腑に落ちないが…分かった。」と頭の片隅で「これ終わったら書類たくさん書くのか…」とか考えながら頷く。

そして、意識の臨界点に達したお狐様は縦割れ目を暗闇で黄色く光らせ、体全体に青白い炎を纏った格好になった。後で聞いたらこの時はまだ30%しか炎を解放していなかったらしいが。

炎が強すぎて小刻みにブルブルする俺の体の横で紅も「グルル…」と低く唸り始め、こちらも体全体に青白い炎を纏う。のだが尻尾が裂け3本となっている。もふもふ。

「「斃れ…。」」

キイッと縦割れ目を細くした刹那。両者共に最速ともとれる速度で衝突する。その速度がなせる技か、後のジャングルジムが土台から吹っ飛んだ。それに倣い紅も駆け出し回転ジャンプで飛び上がったかと思えば半芋虫に向かって口から凄まじい量の炎を吐き出し浴びせる。

それはここが危険な地域ということ、勧善懲悪をしているということ、公園だということを除けば。

望んだモノを焼き尽くす炎であるということを除けば。

特に飾らない言葉で喩えるのだとすれば。

幻想的だった。

#小説





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