ぼくはとみたけにはなれない。
ぼくはとみたけにはなれない。
ああ悔しい。ぼくはとみたけにはなれない。ぼくはとみたけにはなれない。ぼくはなんにもなれない。ああ悲しい。
先細りの丸い指先に、丸く切りそろえた短い爪に、少し厚い掌に、円筒型のその腕に、わたしはあなたになりたい。あなたのような外殻がほしかった。
ぼくは何者にもなれない。ぼくはなんにもなれない。ああ悲しいよ、とみたけにはなれないよ。
チューブ一本分の白い絵具にほんの一滴クリーム色を垂らしたようなあなたの肌は、わたしの粉っぽい黄土色の肌とは違う。なぜあなたの腕は艶々なのかしら。ぼくも人間に生まれたというのに。
なぜかしら。数字が読めない人間であるからかしら。わたしだって数学ができないのに。国語はできても共感性がないのかしら。話しかけることはできても、話しかけられることができないからかしら。ぼくの欠陥は大きすぎたのかしら。
生まれてくる外殻を間違えたんだろう。きっとそうだ、そうでなければ、中の人がここまで悲鳴を上げることはないだろう。サイズの合わない靴を与えられて歩けないのと同じ。形の合わない外殻を賜って動けないんだ。
わたしは、わたしの外殻を間違えた。きっとそうだ、そうでなければこんなに無力でこんなに低能でこんなに生きづらい人間を生きるものか。選べなかった体、デコって自分にしてこって、ミルナちゃんは言ってるけどどれだけデコったって小さすぎる靴では走れない。わたしの靴は小さすぎる。
少しの日焼けで薄茶色い染みが浮き上がるわたしの手の甲は、肉を山盛り纏っているくせに血管と筋が浮き出て美しくない。ぼくの手の甲は柔らかで白いとみたけの手の甲にはなれない。
首が長くて、胸の位置も腰の位置も低めだなんて、とみたけこそが骨格ウェーブみたいなのに。でも違う、とみたけは太腿が細くてふくらはぎがよく張ってる。くびれの位置も低いけど腹が前に丸いし、胃の辺が高いのもたぶん違う。首が長いナチュラルかも。わたしとは違うんだわ。ぼくはとみたけになれない。
ぼくはとみたけになれない。可愛い人間になれない。こんな外殻に生まれるつもりじゃなかった。こんな外殻で生きていくつもりじゃなかった。ぼくは人間になれない。
チワワは救済か。いつも真剣な瞳でぼくを見ている。信じて疑わずにわたしの胸に飛び込んでくる。チワワよ、お前は死にさえしなければ本当に正しい存在だね。死んでしまうから永遠にはなれないのだね。現世で一番神に近い生き物よ。
ぼくはチワワにはなれない。ぼくはとみたけにはなれない。醜い外殻とともに生きている。小さすぎる靴を履いて生きている。チワワを抱いて己の不幸を憂いている。