ザーゴ、解任について

総:考えを最終的に総括するため、進行する俺

理:フロントの意向を理解し、前を向きたい俺

真:今の本音を語る俺


総「さて、ザーゴ監督が解任となりました。公式戦成績は全46試合で23勝7分18敗。在任期間は約15ヶ月でした」

真「ふざけんな。今までのリアクションサッカーに限界を感じたから、真反対のサッカーを志向するザーゴをチョイスしたんだろ?15ヵ月で我慢の限界ですって覚悟が足りんよ。気持ちも見積もりも甘い。」

総「確かに。フロントが『リフォームではなく建て替え』と宣言してた割には、チームの完成を見切るタイムリミットが15ヵ月というのは早計な気もします。」

真「最後にリーグ通年優勝を果たしてからのこの10年間、監督選びの基準が『フロントに都合の良い人選』になってきてる。後任は相馬監督?また監督に自分達の意向を則らせて、優勝できず、痛みを以って『これじゃダメだ』と気付きまた誰か連れてきて、1年ちょっとでポイか?我慢を知らな過ぎるね。」

理「でも、ただただ愚直に低迷を眺めて待つ事が『適切な我慢』か?と問われれば、それは違うと思うよ。あくまで堪えた先にある光が見えてなきゃ、それはただの『放置』だ。」

総「今回のシチュエーションだとそういう方向になりがちではあるけど、一概に『我慢が善で変更が悪』とは言えないのも事実です。」

理「だからやっぱりフロントとしての基準は、あくまで『このままのザーゴ体制に、兆しを見出せるか?(見えたとしてもその兆しまで待てるか?)』という線引きだったと思う。」

総「それが今オフのキャンプ、そして課題が浮き彫りになった状態で臨んだ代表ウィークという準備期間を経ての変わらずの停滞を見て、『このままでは』という判断となり解任に至ったという流れなわけですね。」

真「この時点で兆しを見切るだなんて、フロントは随分と自分達の目に自信があるんだな。その目を過信した結果が、ザーゴを連れてきて『建て替える』経緯になったのに、そこの記憶は誰かに消されたのか?そこが不満だって言ってんだよ俺は」

理「でもサッカーの内容を振り返ると、やはり前進している感覚は無いよ。そこの停滞感が、『この先の我慢が、放置になってしまうのではないか』とフロントに判断させた最大の要因なわけだから」

真「そこは俺も認めるよ。これまでも何回も言ってきてるけど、ザーゴのサッカーは『繋ぎ』が『蹴り・守備(即時奪還)・テンポの掌握』の土台になる。この土台がしっかり安定してないと上は成立しないし、その先にあるゲームの支配も実現不可能になる。そのくらい『繋ぎ』は重要だった。」

総「でも最後の最後まで繋ぎの整備ができなかった、と。」

理「そうだね。『チームとしてやろうとする事』に対して、『チームとしてやれる事』が追いついてなかった。そのギャップが選手達のパフォーマンスの低下に繋がり、敗戦。その敗戦がさらに『自信の喪失』に繋がり、組織として悪循環に陥っていた側面があるのは間違いないね」

総「結果として

・ザーゴのサッカーで勝つためには繋ぎの整備は至上命題なのに、それができなかった
・できないなりの他の選択肢もフロントから提示したけど、ザーゴは自分が監督を任されている以上自分の持つ最善の形を目指すので、至上命題である繋ぎにチャレンジし続けた
・状況は好転せず、むしろ悪循環突入。停滞を抜ける兆しを提示できず、フロントに切られた
というのが、今回の解任の実状になりますかね。」

真「そんな感じだろうね。そのうえで俺は『そんなすぐに繋ぎの整備ができるなんて思ってたのなら、その見積もりと覚悟甘過ぎるよ」って言ってるわけ。そりゃノンストップでエラーなく成功まで辿り着くのが理想ではあるけどな。」

理「正直、上手く行かなくなってから『フロントの提示を考慮せず自らの道に突っ走り停滞を続けさせた』この構図が、フロントとしてかなり印象悪かったんでしょうね。」

真「建て替えとか謳っておきながら、結局『まぁ土地はフロントのモノだけどね』って事だったのには変わりなかったって事だよな。形式上は大工・デザイナーに委託はしてるけど、『いやいやこの土地はあなたのモノではないんですから、迷ったら私が決めますよ』だったわけだ。俺が大工(コーチ)やデザイナー(監督)なら、この土地を選ぶのは相当ハードな選択だね。」

理「まぁでも、そもそもフロントがやりたいと思うサッカーが先にあって、そこにそぐう監督を連れてくるというのがモノの順序になるわけだから、『話が違うぞ』という摩擦は、実際に工事が始まれば起き得ることだけどね」

真「今回は話違くねぇだろ。もうそんなに自分達のやりたい確固たる形があって、それに従ってくれないと工事が進まないなら、全部言う事聞いてくれるスタンスの委託先にすればいいのに…の結果がOB起用と。これが歴史を繰り返すという事だな。そのやりたい確固たる形への過信が今回のスクラップ&ビルドなんだから」

総「フロントの求める形、という話題が出たのでここで併せて議論したいのが、『鹿島らしさ』という概念です。ここについての意見がメディアやファンの間で大きく話題になっています。」

真「少なくとも俺の中での鹿島らしさというのは、『勝ち方を知ってる』という事。ゲームの流れ、さらにはシーズンの流れを読み、ここでどう振る舞えば強いチーム・勝てるチームになれるのかを知っている事だね。」

理「そういう意味では、新監督に相馬直樹という人材を充てたのは、鹿島らしさを意識してる部分もあるだろうね」

真「いや、『勝ち方を知るには、勝つ経験が必要不可欠なステップ』なんだよ。勝つという成功体験を踏まなきゃ、勝ち方を知る事はできない。それを選手として発揮する事と監督として発揮する事は全くの別物…って、過去のOB起用から学ばなかった?」

理「でも過去のOB起用と違って、相馬監督は別のクラブで既に監督経験を積んでる経験がある。特にゼルビアでは、やりたい形に対してアプローチを積み、ピッチ上に体現した実績がある。そういった意味で、実績がある+勝ち方を知っているという2つの要素を持ってる相馬監督を選んだのは納得がいくよ」

真「発想がそもそも違うんだよな。『鹿島らしさ』って本当にそんな過去を掘り起こさないと得られないモノなの?新しいスタイルで勝って、その勝つ経験が勝ち方を知るという結果に繋がるんじゃん。だから新スタイルで勝って、『新たなる鹿島らしさ』を作っていかないといけないんだよ。なんとか過去に遡ってアレに近いモノを…っていう発想いわゆる『古豪』そのものだと思うね」

総「事実小笠原満男や曽ヶ端準に加え、内田篤人も去り、過去の栄光を知る者の多くはもうピッチ上には居ません。最後のリーグ通年優勝時、そのチームに居たのはもはや遠藤康ただ1人のみ。そういう意味では、過去の再現というベクトルより、新たな栄光の創出に舵を取るべき時が来てるのかもしれません。」

真「っていうか、そもそもザーゴ呼んだのがそうだったんじゃん。だから俺は『結局1度取り壊す覚悟が、思い出の家を取り壊して新しい家を建てる覚悟が無かったんでしょ』という指摘をしてるわけ」

理「フロントには『1度捨てる』っていう発想は無いと思うけどね。家具とか引き継いで、過去積み上げてきたもの、それこそ『血を絶やすことなく』次の栄光を掴みたいという考えのはず」

真「だとしても遅いでしょ。もう2021まで来ちゃってさ。もう小笠原曽ヶ端内田が居ないとかじゃないんだぞ。小笠原曽ヶ端内田と一緒にバリバリやってた選手すら数少ないんだぞ。それだけ海外移籍が増えて人の流れっていうのは激しくなったの。それに伴い勝ち方という経験の伝承は難しくなったんだよ」

総「だからこそ、『成功体験の伝承』ではなく、新たなサッカーを作り上げての『成功体験の創出』が必要だったわけですよね。」

理「あくまでフロントとしては、『伝承しつつの創出』が理想形であって、『喪失からの創出』ではないと思うけどね。」

総「先ほどチラっと海外移籍の増加の話が出ましたが、これも将来有望な選手を多数抱える鹿島にとっては今後も避けられない問題です。ここについては、今回の監督交代との関係性がどうあると思いますか?」

理「これが大問題なんだよね。『育てて→モノになって→活躍して→海外へ』だったこれまでのサイクルが、2016あたりから『育てて→モノになって→海外へ』というサイクルに変わった。活躍する前に、モノになったその瞬間出荷されるようになった。」

真「それは本当にそう。まともにやってちゃ、出荷のスピードに対して生産のスピードが追いつかない。」

理「だからこそ、監督には『ある程度早熟な状態でも、試合で継続して勝てるような土壌作り』が求められたんだ。まさにフロントがザーゴに期待してた最大の望みの1つだと思う。で、選手がある程度早熟な状態でも活躍できる土壌作りってなってくると、やっぱり下書きは明確に監督側から提示してあげなきゃいけない。土居や遠藤のように、長年下書きがない鹿島で鍛えられてきた結果、下書きすらもその場で『これがベストだろ』と即興で素晴らしく描くには、それこそ経験が必要だからね」

総「しかし土壌作りは上手くいかなかった。結局エヴェラウドや荒木などの、熟した質の高さに依存する状況が続きました。」

理「これに関してはフロントも想定外だったと思う。こんなに土壌作りに苦戦するのか…と」

真「確かにこの時点では土壌を作れてたとは言い難いね。でも『ヨーロッパからエリート連れてこれた!きっとシステマチックに土壌作りやってくれるはずだ!』と想定して契約して託して、フタ開けてみたら『無農薬が一番よ』派だった!話が違う!って、そりゃ単なるリサーチ不足でしょとは思うけどね」

総「ただ、フロントが想定したより『下書きに遊びを持たせ、ファジーな形で柔軟性を捨てずに選手に任せながら勝ちに行く』スタンスだったのは、1つ大きなボタンのかけ違いになったのは間違いないと思います。」

理「ベースの所の提示はしっかりできてたと思うけどね。でも、これだけ繋ぎが重要なサッカーなのに繋ぎの下書き描画がここまで滞るというのは、計算外だったとは思う。」

真「それは同意。だってある程度やった時点で、『この領域を選手に任せてたら上手く回らない』というのはわかっていた事だから。『ならコーチングスタッフ陣である程度下書き固めてあげましょう』とならない、なっていかないのは指摘が入って当然ではある。」

理「ザーゴがこれまで、プレイヤーとしてセレソンやローマで、そして指導者としてレッドブルグループで一流を見てきたその経験が、『選手の自主性に任せる効力』を大きくさせていた可能性も大きいです。」

総「サッカーの中身の話に移ったので、より深くサッカーの内容の話について考えましょう。」

真「とはいえ、ザーゴは繋ぎの整備ができなった事が主な原因で解任されたなら、それをその時一緒に試行錯誤していたコーチの内部昇格によって解決させようというは、話のスジが通ってないよね?」

理「まさしく。ザーゴを切って、でもコーチ陣は全く変えずに、となれば、さらにまたこれからある程度の方向転換をするという宣言にもなります。恐らく繋ぎから一旦離れ、でもリアクションサッカーに回帰するのではなく、自分達から仕掛けて主導権を握るサッカーを目指す形は継続するはず。」

総「つまり『ボール非保持状態でアクションを仕掛けて相手を支配するサッカー』を目指すようになる、と。」

真「そうでしょうね、というか、そうじゃなきゃ話の筋が通りません。」

理「そうなると、やはり守備での仕掛けの体現をゼルビアで成功させている相馬監督への期待は大きくなります。」

真「そうね。もうそれを期待するしかねぇよ正直。もう何も残ってない。去年の嬉しかった思い出も、悔しかった思い出も、見えた光も、闇も、もう何も残ってないから。」

総「では総括に取り掛かります。
・フロント目線で考えた時、判断基準はあくまで『兆しを見出せたか?』。その点、ザーゴは繋ぎがベースとなるサッカーにおいて、繋ぎ改善の兆しをピッチ上に提示する事はできなかった。
・そもそもこの判断(見切り)自体が早計だという意見もあるが、そこ含めて、あくまで全てはフロントが『兆しを見出せたか?』に帰結する。(もし兆しが見えていれば経過観測となるハズだから)
・兆しを見出すには、繋ぎの改善以外にも方法があったが、ザーゴは監督を任されている以上自らのフィロソフィーに従い繋ぎの改善に取り組み続けた。
・おそらくこの選択も、フロントとしては兆しが見出せないという判断にあたった材料の1つ
・しかしそれでは結局、監督に関しては最終的な判断の所はフロントの意向に従う『都合の良い』人選になっていくのは避けられず、その繰り返しでここ数年クラブとして停滞している側面はある。
・鹿島らしさは『継承するモノ』ではなく、『創出するモノ』に切り替える必要が出てきている。そのためには新しい勝ち方を確立し、勝ち方を知っているチームになっていく必要がある。
・そのために、海外移籍という出荷のスピードを上回る生産のスピードが求められ、だから今後はある程度下書きをしっかりとコーチングスタッフ陣が提示していく必要がある。
・そうなれば、一度Jリーグの他クラブで下書きの描画に成功している相馬監督への期待は大きい。ボール非保持で仕掛けて主導権を握るサッカーの構築が求められる。

といった形になりますかね。これでよろしいでしょうか」

真「ザーゴで勝ちたかったんだよ俺は。ザーゴと喜びたかったんだよ…」

理「でも後任がフロントの傀儡になりがちなOBかつ内部昇格という条件付きとはいえ、他クラブで守備で仕掛けて主導権を握る形の体現に成功した経験のある監督というのは、前を向ける要素だと思います」

総「それではこれにて以上となります。期待していたからこそしんどい思いもしましたが、鹿島しか見てこなかった僕にとっては、完成した時のエネルギッシュなサッカーで圧倒する姿を想像するだけで心が躍りました。実現せずに終わってしまい残念です。思えば、一度も満員のカシマスタジアム、そして声援を体感させてあげられずに終わってしまう事になります。一度でいいから体感して欲しかった。我々の期待を、まばらな手拍子ではなく、気持ちの乗った声で届けてあげる事ができないのは本当に心苦しいです。良い夢見させてもらいました。僕にとっては歴代、最も応援した監督です。ありがとう。どこかで、そのサッカーが大きく花開く事を祈っています。さようなら」

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