【J1第4節】vs神戸戦 2022鹿島アントラーズ 6歩目

2-0。勝利。100点。


鹿島の狙いと完璧な立ち上がり

スタメンは以下の通り。

神戸はこれまで同様4-1-3-2。
鹿島は基本配置は4-2-3-1とし、守備時は荒木が前に出る4-4-2を採用した。


この試合、鹿島は守備に狙いを持ってキックオフ直後から仕掛ける。

神戸は4-1-3-2でのビルドアップとなるが、これは前節対戦相手の柏がボール保持時に可変した時と同じ形。
ただこの日の鹿島は前節の中盤菱形でのプレスではなく、4-4-2で守る形をとった。


なぜ前節機能した形から変更を施したのか。

最大の理由は、神戸が柏と違って最後方のビルドアップにGKを参加させるという点だろう。

中盤菱形での守り方における最大のデメリットは、相手のSBへの1stアタックが遅くなることだ。

このデメリットを消すために前節は最前線からの追いこみによって柏のボールの流れを右へと能動的に指定して、あらかじめSBへの1stアタックの準備をする形で補った。


ただ柏の場合はGKを絡めず2CBのみが最後方に残る形なので鹿島が2FWで追い込みをかければ思い通りにサイドへボールが流れていったものの、神戸のようにここにGKが加われば最後方の構図は2CB+1GKの3人体制となり、鹿島の2人がかりでの追いこみを外せるようになってしまう。

もし追い込みを外されサイドが限定できないのであれば、それは中盤菱形守備最大のデメリットが露呈する事、つまり相手の両SBが常に自由にボールを持てるようになる事を意味する。

それを防ぐために、この日は最初からSHを設置することで相手SBの自由を制限することを優先させた。


ただピッチ上を12人に増やせるわけではないので、当然SHを設置する代償として、どこかに選手を置けなくなる。

今回それにあたるのが、相手のアンカーを常にマンマークで監視する役割の選手だ。

今季これまで採用してきた4-2-3-1と4-3-1-2という守り方は、いずれも相手アンカー監視役が置かれていた。

ただ、相手の最後方からの前進も防ぎたいから最前線には2枚欲しいし、相手SBの自由も制御したいので両サイドに1枚ずつSHが欲しい。
4-1-3-2になると重心が前になり過ぎるし相手トップ下が捕まえられなくなるので2CHも欲しい。

それを踏まえ、この日はアンカー監視役が廃止された。


では相手のアンカーを自由にさせないために、鹿島はどうしたか。

答えは「最前線の2人が頑張った」。


以下の形のように、常にボールとアンカーを結ぶ直線状に選手が立ち、そのうえでボールにアプローチし続ける。


上田と荒木の2人がこれを序盤しっかりとやり切った。めっちゃ頑張ってるので是非みんな見てあげて欲しい。


これにより、鹿島は最前線2人によるプレスによって、神戸の理想である「中央(CB+アンカー)が前進して全方位展開」という状況を防ぎつつ、設置されたSHが外(SB)からの安定した前進を防ぐ。


こうしてこの日の鹿島の守備はいつもの原則通り、
相手に再現性のある攻撃の起点を作らせず、
大外に逃げてきたタイミングをスイッチに設定して、
そのサイドに組織全体で蓋をする構図にすることで狭さを創出し、
相手のボールの流れを窒息させて奪い取る
という形をとった。


そしてその狙いが試合の序盤からハマっていく。

神戸はやはりこれまでの戦い通り4-1-3-2の状態から、中〜長距離のパスではなく短い足元へのパスを繋いで前進をしようと試みる。

しかしそこに対して鹿島の守備がハマることで、立て続けにボールロスト。
キックオフから前半6分までの間の5回のビルドアップで一度も押し込めずに攻撃が終わる。
その5回目のビルドアップ(5:05~)で鹿島が高い位置でボールを奪い、そこから上田綺世がロングシュートを放ってコーナーキックを獲得し、そのコーナーキックから先制点が生まれた。


正直このゲームは、この試合開始からの6分間、計5回の神戸のビルドアップに対する鹿島の守り方に全てが凝縮されていると思っている。

相手に合わせて自分達で設計したものを、ピッチで表現する。
そしてそれを成立させるための難しいミッションを選手達がやり切る。
さらにそれを主導権やゴールに繋げる。

「試合の入り」として完璧だった。



守備でリズムを作る。

これは昨年の相馬体制でも用いられていた手法だ。

しかし主導権を渡してミドルブロックで「待ち」、相手のミスが出たところからショートカウンターで刺すソレと、
設計されたプレスを「仕掛け」主導権を自ら掴みに行くこの試合のコレは、
明らかに性質が異なる。

加えて、手札がソレだけではなくなったというのも非常に重要なポイントだ。

相手がロングボールを多用するなら重心を上げ過ぎず我慢して準備し、今日のように相手が繋ぎにこだわるなら地上戦でのプレスを仕掛けて機能停止させる。
もちろんボール保持局面でも、相手に合わせて攻め方を変える。


相手に合わせて、狙いと、そのための設計が伴ったアクションを自分達から仕掛ける。


これこそが昨年と今年で最も違う点だ。



「ソレ」のみに一点集中する手法でも、鹿島の優秀な選手達は勝ち点を稼ぐことができる。
実際問題、昨年も鹿島はリーグ戦で多くの勝ち点を積み上げた

ただ鹿島アントラーズの目標,使命は、リーグで優勝すること。
国内で1番強い、他のどこよりも強いチームになることだ。

そのためには、年間通して戦う様々な相手に応じて、高い効力を持ったカードをその都度繰り出せるようなチームになる必要がある。


このチームは1歩ずつ、前へ進めている。



先制ゴールが決まってからは、「先制ゴールが決まるまで」になにが起きていたのかを証明するかのように神戸が押し込む形が繰り返されることで、神戸ペースの時間帯が続くようになる。

現に試合再開がされた前半7分,8分,9分,10分,11分といずれも同じような形で、ボールサイドに蓋をしに行く鹿島に対し、神戸が右サイドから左サイドへとボールの流れを大きく開放して、左SBの初瀬が高い位置で余裕を持ってボールを持つシチュエーションが作られる。

とはいえ、神戸もゴールに迫るに至らない。
ここに関しては、前節機能していた広瀬ではなく、右SBに常本をチョイスした効果が大きい。
度々神戸が右→左の解放で左サイド(鹿島から見て右サイド)から押し込むも、右SBの常本の守備範囲と無理の効く対応力でサイド攻略はさせない。

ここでも先ほどと同様の事が言える。
組織としてやろうとする戦略を相手によって選び準備してチームに提示できるようになれば、それに合わせた適切な選手(前節で言えばボール保持の局面に武器を持つ広瀬であり、今日で言えばボール非保持の局面に武器を持つ常本)を配置することができるようになる。

その選手にしかできないスペシャルな特徴を活かしつつ、かつそれありきじゃないとチームが成り立たないような依存はしないよう、色々な戦い方の引き出しを持っておく。

長年これができずに、このチームは特定の選手の特定のスキルに依存したチーム構造を脱却できず、その核となる選手の替えが効かずに酷使。
結果的に負傷離脱してしまいチームが上手く機能しない時期をどこかしらで迎えてしまう場面が多くあった。

しかし年間34試合戦い抜いたうえで最多勝ち点を獲得するには、良くない時期にも勝ち点を稼げるようにならなければいけない。

そういう意味でも、今チームが進んでいる道はリーグ優勝に繋がっていると感じさせられる。



そこからも試合は終始神戸が主導権を握る展開に。

だからこそ、一瞬の動揺を誘った試合の入りと、その機を逃さずスコアに繋げた健斗の先制点はチームとして大きい。もちろんその後の優磨の追加点も。

ボールとペースは握られても、中を締めてサイドで圧迫。
そしてそこから逃げられて逆サイドに振られても我慢強くしっかり全体でスライドして、外で止める。
最後はやらせない。

これを徹底して繰り返し、クリーンシート。

こういう勝ち方ができるようになってくると、いよいよ強い。

※後日、加筆予定