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🌊埼玉人(サイタミスト)は海が好き⓶

「お姉さん、お姉さん、起きて起きて」

身体をカクカク揺さぶられて目を覚ます。
どうやら寝落ちしてしまっていたらしい。
駅で位置登録をするスマートフォンゲームで遊ぶ為に各駅停車に乗っていた私は、京都駅朝5時30分発の米原行きを逃さないため、残業明けの身体を鞭打って睡眠時間を最小限にしていた。

内灘海岸の夕焼け

目を覚ますと夕方で、目の前に知らない少女が立っている。
ロシア系の子供なのか、色白で青い目をした少女だ。

「こんなところでゴミと一緒に眠ってどうしたの? すんごい騒音イビキかいてたけど・・・」

「アカン、寝よったんか! もう夕方やんか!!」

「それにお姉さん、都会から来たでしょ? どこから来たの? 東京?」

「お姉さんちゃうし、東京から来たわけでもないで。まぁ出身地はダ・埼玉やねんけどな・・・」

「埼玉の人なんだ。なら私のお父さんと一緒だね。埼玉の人は海が好きって言うのは本当だったんだねぇ。」

「そうなん? ちなみに父親オトンは埼玉のどこ出身なん?」

訊くと彼女の父親は私の出身地の隣の市だった。
最近はクルド人関連で何かと槍玉に挙げられることが多いが、クルド人が来る以前から治安の悪い街で、ソープランド街があったことや、街の工業高校にヤンキーが多いは東埼玉では有名だった。
ソープランド街は浄化したとは聞いているが、その話を聞いた頃にはもう埼玉には住んでいなかったから事情は知らない。

ちなみに目の前の少女の名前は鳩ケ谷ナディアと言う名前らしい。
ナディアという名前はこの町を走る町内バスの名前とよく似た名前だ。
なんでも、お父さんは大浜ふ頭の近くにある、大きな建機メーカーで働いているらしかった。

埼玉人サイタミストは海が好きなのは本当だ。
なんだかんだで海のある県に移住していく埼玉人サイタミストの話は少なからず聞くが、この子のお父さんは友人と仲良く内灘に引っ越してきたんだそうだ。

内灘砂丘に沈む夕日

そうやって海の近くに移り住んだ埼玉人サイタミストの話を聞いていると、時折自分の未来がとても不安になるものがある。
南西に開けた内灘海岸の夕陽はとても壮大で綺麗だ。
四駆の走るだだっ広い砂丘の中で夕陽を見ていると、まるで自分が地球の中でとてもちっぽけな存在であることを意識する。

日々、大阪という大都会で仕事していると、本当に自分はこのままで良いのかと言う不安に苛まれるのだ。
こうして波の音を聴きながら、壮大で綺麗な見ている間だけは、そんな現実にちじょうから目を背けていられた。

そしてこの夕景ユメが、終わることなく、覚めることなく、永遠に続いて欲しい。
そう願わずには居られなかった。

《登場人物》

わたし

埼玉県草加市出身の36歳。
大阪勤務をしていて今後の人生に悩む思秋期。
名前を割り当てる予定は今のところ・・・ない。

鳩ケ谷ナディア

名前の由来は鳩ケ谷市(苗字)と内灘町の「なだバス・ナディ」から。
鳩ケ谷市はかつて埼玉県に実在した市で川口市に三方を囲まれていた。
現在は川口市に吸収され、消滅。
なお、高校は金沢市内の高校に通っている。

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