どこにでもあるのに買えない重要パーツ

ガソリンタンクに充填されたベンゼン環を含む 芳香族化合物 =ガソリンの分子はインジェクションで気化されて酸素分子と出会い,シリンダー内で急激に膨張してピストンを押し下げ,そのエネルギーがクランク軸で回転力に変換され,減速機を経てドライブシャフトを回し,サスペンションに吊られた駆動輪を回す。こうすることでいよいよ、エンジンのパワーが路面を蹴りだし、車を前に進める反力を得ることになります。その最後の重要な役割がゴムで出来たタイヤの仕事。

ここまではギアにしろシャフトにしろ大部分が機械的な結合。しかし、ホイールの先についているタイヤを内側で支えているのは空気です。これが無いと、あるいは多少でも不足していると充分な動力伝達はかないません。

今、ほぼ全ての乗用車タイヤはチューブレスです。ショップにチューブを買いに出かけてもその姿を見ることはありません。バイク用なら細いチューブを手に入れることは出来ますが・・・・・パンクしたら、スペアタイヤに交換、も過去の光景になりつつあります。ジムニーのようにフルサイズのスペアタイヤを背負って走っている車は稀なカテゴリー。道路脇に車を止めた女性ドライバーのタイヤ交換を手伝ってあげて、そこから縁が生まれて・・・・・これも、もう過去の話です。

60年代の終わり頃までは乗用車用タイヤにはそれがたとえ高性能車であってもラジアルではない、クロスプライと呼ばれるタイプのタイヤが標準装備されていました。5.60-13-4PRのように表記される数字のうち5.60とか6.50といった数字はタイヤ幅を示すインチ数、次はホイールの外径サイズで、最後のPRはプライ数=、タイヤの接地面に斜め方向に敷かれている硬い繊維質の層の数を示しています。商用車やトラックでは6PRやもっと厚い靴底も。

いっぽう、ラジアルタイヤは接地面の幅をセンチで最初に表記して区別しています。(タイヤの厚み)PRの代わりに扁平率をパーセントで表記し、70から60,55,45と時代とともに超がつく扁平タイヤも登場するようになります。

クロスプライの時代にも扁平タイヤは存在しており,高性能を物語るときはラジアルタイヤではなく扁平タイヤの装着を売り物にしたものでした。ラジアル構造の進行方向に平行に織り重ねられたプライだと、路面の細かな衝撃をそのまま伝えてしまうことになり、乗り心地向上には不向きです。が、路面の舗装率が上がるとともに標準装備するクルマも増えてきました。

タイヤの断面を見るとサイドウォールと呼ぶ両側の断面は非常に薄いゴムの層です。薄皮まんじゅうのようなデリケートな部分だけに、不注意で縁石に擦ったりしないよう注意が必要なタイヤの急所です。昔はこの部分を白く塗装したホワイトリボン・タイヤがお約束で、今で言うインチ・アップのような視覚効果も併せ持っていました。これが廃れるきっかけは第一次オイルショックで、このときメッキで彩られた鉄製のホイールキャップも消えてゆきました。むき出しになった鉄板のホイールを黒く塗装し、ホイールナットをメッキ塗装したキャップレス・ホイール、もしくは高価なアルミホイールを選択するかの二者択一時代へと進みます・・・・

タイヤ交換が出来なくて路肩にたたずむ女性がいなくなるように,スペアタイヤとか緊急用のテンパータイヤ、タイヤ補修キットと電動ポンプといった応急用装備もいずれは姿を消すかもしれません。パンクしない=ランフラット・タイヤが登場しているからです。とはいえパンクはします。が空気が抜けても走行できるだけの仕組みを備えており、空気が充填されるスペースに、硬い構造材が内蔵されていて、空気の代わりにタイヤを支える役割を受け持ちます。

あくまでも修理を終えるまでの緊急走行が出来る、というだけでまだまだ最重要パーツである空気を必要としないタイヤの登場は先になりそうです。


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