進化したカブト虫?(1970のクルマメカ)

「モデルチェンジはしない」がスローガンだったフォルクスワーゲン・ビートル=かぶと虫。でも毎年の様に繰り返される小変更はマニアたちの大好物。年式を見分けるための貴重な手がかりでした。

そんな進化著しいVWビートルですが,モデル・チェンジ並みの大変更を実施したこともあります。VW1302/1303と呼ばれる新型バージョンの登場です。見た目にはホンの僅かロング・ノーズ。フロント・フードの幅もちょっぴり広がって、独特の丸みを帯びたカーブは微妙に変化しています。でも運転席から後ろは同一。前から見ないと判らない変化でした。

その巨大なフードを開けると、それまでVWビートルでは見たこともない260リッターのトランク・スペースが広がっていました。斜めに置かれていたむき出しのスペアタイヤも見当たりません。それは延長されたフロア下に置かれ、その上にトランクマット上の荷物空間が出来ていたのです。

その空間を埋めていたものは、直立したスペアタイヤと、前輪を支えるトーションバーサスペンションでした。長いねじり棒をひねってサスペンションバネに使ったもので,左右に伸びた二本の棒ばねが前輪の間に横たわっていたものです。

1302ではこのサスペンションを後のゴルフ1と同じストラット・タイプに大変更,左右のタイヤ間にはトーションバーがあった場所に大きなスペースが生まれることになります。実はビートルから生まれたスポーツカー=ポルシェは最初の大モデルチェンジ・初代911登場の時点で、このストラット式をひと足早く前輪に採用していました。だからフロント・フードを開けても、旧式の356のようにスペアタイヤが顔を見せることはありません。

後続のビートル1303では、さらに進化してネガティブ・スクラブというタイヤ配置を採用しました。後に続くゴルフほか多くのFF車が倣うことになる、このネガティブスクラブとは、タイヤの接地面の中心がハンドルを切ったときの回転軸とはならずに、タイヤの外側寄りに回転中心が移された、つまりスクラブ半径(タイヤの旋回中心と接地面の中心のずれ)がそれまでのポジティブ(接地面中心のほうが外側)から逆の位置関係(回転軸のほうが外側寄り)とされたのです。カタログには前輪の右タイヤがパンクしても,右にハンドルを取られることなく(タイヤ自身はやや内側を向く方向に引っ張られる)直進状態を保ちやすいと説明がありました。

エンジンも強力版の52馬力/60馬力を搭載してちょっと高性能なかぶと虫としてゴルフ登場までの数年、リリーフ役を務めました。曲面ガラスでそれと一目でわかる1303に比べ、平面ガラスのままで計器盤も従来型の1302は生産期間も短く、いま見つけることが出来たらかなりのレアものです。

日産の910系6代目ブルーバードはハイ・キャスターの他にゼロ・スクラブとした前輪ジオメトリーを採用して、直進性のよさ、ハンドルの切れ味を両立させています。このハイ・キャスターの考え方と、遊びの少ないラック・ピニオン式ステアリングはその後の日本車にも広く波及しました。

思えば70年代という時代は前足(前輪)の進化において著しい進化のあった時代とも捉えることが出来そうです。

同じ頃、日本のFF2ボックスのパイオニア的存在だったホンダ・シビックも当初はモデルチェンジしないことを公言していました。が、デビュー7年後の1979年には殆どイメージを変えることなく、少しだけ大型化したスーパー・シビックに生まれ変わっています。

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