早すぎたミニバン

トール・ボーイ=高速道の料金所には珍しい若くてハンサムな収受員が多かった?のではありません。80年代初頭から車デザインの新しい潮流として提唱されたのがこのトールボーイ・コンセプト、と言うわけです。絶好調のスズキ・アルトに対抗してダイハツが送り出したミラ・クオーレが2BOXよりも車室が広く、より効率的なデザインとして1・5BOXを提唱した辺りから、この潮流が始まりました。

ホンダがシビックのさらに下のクラスとして投入したシティはCMのユニークなムカデダンスも話題でしたが,ミラのスタイルをさらに発展させたような高いルーフと短く前傾したフロントフード。高さ方向に空間を求めた潮流が一段と鮮明になりました。乗用車としては異例のハイルーフ仕様すらラインアップされていたほどです。

トランクの出っ張りのないエンジン・ルームと車室で構成された2ボックスから、さらにエンジンルームを小さく見せることで、ワンボックスに近づいたと主張するものです。実際にはエンジンそのものを削る訳にはいかないのでドライバーの姿勢を背筋の伸びた腰高な形に矯正し、前に投げ出した脚を手前に引くことで前席の位置を数十センチ、前進させます。こうすることで後席の足元にも余裕が。その代わり天井を高くしておかないと座高の低い人専用デザインになってしまいます。フロントのガラス位置も前進させることでフロントフードは短く見えます。これがトール・ボーイの所以。

これを追ってシビック5ドアシャトルや日産プレーリー、三菱シャリオも前輪駆動と組み合わせたスマートな、スペース効率に溢れたミニバンを相次ぎデビューさせます。が、日本でミニバンがブームになるのはまだ10年以上先のこと。消して主流とはなれずミニバンの始祖たちは歴史の陰に埋もれてしまいます。

他方で真四角なワンボックスたちにも変化が訪れていました。90年代を境に衝突基準が見直され,強化された基準を満たすために前面にクラッシュ・ゾーンが必要となったのです。ライトエース・ノアもヴぁネットセレナもお尻の下にあった前輪を最前端に移動して、短いノーズをつける様になりました。

トヨタ・エスティマはもっと大胆で、お尻の下のエンジンを横倒しにして後方床下に移し,トヨタで2作目のミッドシップ・乗用車としました。が、水平配置専用エンジンは他車種への応用が利かず、結局前輪駆動のアルファードに統合された末に,消えてなくなってしみました。


車の全高を高くすることは重心も高くなり、コーナリングで左右に傾きやすくなってしまうので、幅を広げたりサスペンションを工夫したり,いろいろと対策は必要です。3ナンバー車の税額が割安になったことも幸いして再びホンダはトールボーイ・コンセプトを世に問います。アコードワゴンよりも背が高く,幅も広い,しかも3列シートの多人数乗りワゴン=オデッセイの誕生です。

オデッセイ、実は生産ラインの関係上、全高を無闇に高くできずに1650ミリ程度に抑えられています。ほかのワンボックスに比べ、頭ひとつ分小さい数字。でもこれが幸いしたのか日本で大ヒット。のみならずミニバンが日本に定着しうるカテゴリーだと知らしめるキッカケともなりました。その前年に背高のっぽの軽乗用、スズキ・ワゴンRが大ヒットして下地を築いていたのもあったかもしれません。

ワゴンRにも実はふた昔前の軽商用車=ホンダステップヴァンというお手本がありました。発売当初はその価値が認められず、やがて中古市場で人気がブレイクしたのは10年近くを経てからでした。そのステップヴァンの名跡は5ナンバーの人気車ステップワゴンに引き継がれます。

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