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世の中をクリーンに!排気ガスの行方

ピストンを力いっぱい押し下げ爆発を終えた混合気には、もう用はありません。真下まで下がったピストンが反転して今度は上昇とともに排気バルブが開き、エンジンの外にご退場願うわけですが、そのまま、大気中に放出は出来ません。

まずは音の問題、それにわずかながら残っているエネルギーの回収と、もうひとつ大気汚染を防ぐための重要な対策です。

まずは音。エンジンを出たばかりの排気は爆音を伴います。モーター・スポーツならそれが魅力のひとつでもありますが、社会生活には受け入れられません。小さな軽自動車でも消音装置=マフラーは必携です。複雑な内部構造を持つマフラーは、しかし若干のパワーロスも伴います。なぜか?

排気バルブから無理やり押し出される排気ガスを途中で通せんぼするとシリンダーの中の圧力が充分に下がりらないまま、次の吸入行程を迎えることになってしまいます。吸入気はシリンダー内の負圧によって吸い込まれるので、この負圧が足りないと充分混合気を吸い込めない、というわけです。

マフラーを通った排気の音を聞き分けるのは、もうほとんど無理。エンジン・ノイズとして聞こえてくる音の大半は冷却ファンが空気を切る音か圧縮行程でディーゼルエンジンが発する衝撃波のノイズです。

排気ガスの中からまだ残っている膨張エネルギーを再利用する、それがターボチャージャーです。1970年代中ごろから市販車にも装備され始めた飛び道具で、排気量を倍増させた位の効果があり、馬力やトルクを5割増しから2倍にもアップさせました。

よく似た機構に戦前からあるスーパー・チャージャーがありますが、こちらは排気ガスは再利用しません。エンジンの回転で回されるブロワーという送風機で空気を押し込む仕組みでターボと似たような効果を得ることが出来ました。しかしブロワーの回転数はせいぜい毎分数千回転、いっぽうターボは数万回転まで回るために、より多くの空気をシリンダーに押し込めます。低回転から効果的なスーパー・チャージャーと高回転だけが得意なターボを二段重ねした、究極の過給装置もラリー車で実際に使われています。

さて、排気を巡る一番深刻な問題は、大気汚染をいかに防ぐか・・・です。1970年代になり、それ以前の様に垂流しは許されない環境になってきました。 高性能スポーツエンジンの開発は70年代にはいったん休止、エンジニアたちは低公害エンジンの開発に全力を注ぐべく、全社を挙げて排ガス浄化に取り組みます。まずは燃焼か不完全な為に産まれる一酸化炭素の削減です。つぎに大気中の窒素が燃えてしまうことで窒素酸化物が出きる問題。あちらを減らせばこちらが増えるという相反する関係にある物質はとりわけ厄介です。

アメリカではマスキー法案という厳しい基準が設けられ、どのメーカーも達成不可能としていた中、日本のホンダがいち早くCVCC(複合渦流燃焼方式)を開発し、この高い壁を世界で最初に乗り越えました。エンジンの燃焼段階だけで有害物質を少なくした上、後処理も不要な画期的システムです。他方、マツダはロータリー・エンジンから排出されたあとの排気をサーマル・リアクターという第二の燃焼室で完全に燃やし、無害化する方法で対応しました。これは日本国内に設けられた、当時の排気ガス規制基準の適合第一号となっています。スバルも燃焼室だけでパスできるSEEC-Tを開発。日産は点火プラグを2本ワンセットにしたNAPS-Z、三菱は吸気バルブを二種類に分け、吸気に強烈な過流を起こす原理のMCA-JETと各社、独自の技術開発をすすめました。そのとき、トヨタはどうしたか?

あらゆる方式を同時並行で開発し、TTCと名付けた主に3種類の方式にはホンダが開発した複合渦流燃焼方式や三元触媒という化学反応を利用した酸化還元反応を促進する安価な方法も含まれました。

様々な試行錯誤を経て80年代にはこの触媒を持つマフラーで後処理する方法がデファクトになっています。

金権まみれの政界をきれいにするべく、政府与党の総裁選に立候補し、総理大臣の座を射止めた、当時の宰相のキャッチフレーズが「クリーン三木」だったことは偶然の一致だったのででしょうか?

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