内股X脚は生まれつき?(クルマメカ解説)


四輪車の前輪は方向を決める操舵の役割と、FFではクルマを駆動する推進力も担うケースが多いため責任重大です。後輪駆動の場合は前後で仕事を分担でき、タイヤの磨耗も四輪で平均化が図れます。

一見すると平行に見える左右のタイヤですが、実は微妙に違う方向を向いています。

まずUターンしようと右に一杯ステアリングを回します。左右のタイヤでは回転半径が1m近く違うことにお気づきでしょうか?内側のタイヤの方がきつい角度で右を向かねばなりません。

3輪車なら話は簡単、バイクのように前輪は1本だけ、あとは後輪の内輪差だけ考慮すれば済みます。戦前、戦後にかけて日本国内には実に沢山の3輪トラックが走り回っていました。引越しトラックだって、2トン積みの3輪トラックで間に合った時代がありました。

でも、きついコーナーでは安定を欠き、転覆の恐れがあったのも事実。三輪トラックはやがて4輪車に取って代わられます。

ただし前輪を二つ平行に並べただけでは回転半径の違いをクリアできません。それも一本のハンドルで・・・・この答えはアッカーマンというイギリス人が随分昔に用意してくれていました。左右の前輪は実は台形のリンクでつながれていて、ハンドルを切るほど、内側の車輪の切れ角が大きくなるよう設計されています。

高速道で、一瞬両手を離していてもクルマは真っ直ぐ走り続けます。自動運転モードでなくてもです。自転車の前輪をよく観察してみてください。車輪を支える左右の支柱=フロント・フォークは後傾しています。バイクも同様。これはキャスター角と呼ばれるもので、自転車ほど急ではないものの僅かにクルマの前輪(を支えるストラット)も傾斜角を持っています。

なぜ回転軸をスラント(後傾)させると手放しでも直進するのか?それは、回転する中心軸が地面と接するポイントとタイヤの接地点との位置関係にあります。キャスターつきの椅子で前後に移動してみてください。車輪は回転軸に遅れるように進行方向になびいていきます。これは回転軸の中心点が接地ポイントよりも前にあるからです。キャスター角を傾けて、回転中心が接地ポイントよりも前にあるとキャスター付き椅子と同じことが起こります。回転軸(の接地点)が前にあれば接地ポイントはこれに追随する、がキャスター角の付いている理由であり、交差点を曲がったあと、ひとりでにハンドルが直進状態に戻ろうとする理由でもあるのです。

1979年発売の新型ブルーバード910系はこのキャスター角を強めに設定し、直進安定性を強めたハンドリングが評価されたこともあって、ライバル、コロナを引き離すクラス販売一位を勝ち取ったものでした。

さて、前輪にはこのほかにもホンの数度ですが様々な傾きが与えられています。

後輪タイヤがハの字に開いた極端なシャコタン(車高短)は除くとして、高性能車の前輪をよく観るとごく僅かハの字に下開きに広がっているネガティブキャンバーにセットされた車があります。コーナリングで車体が傾いた時に、外側のタイヤがより、効果的に接地する様、あらかじめ上反角がつけられたものです。

これとは逆にポジティブキャンバーといって下すぼまりのキャンバーはポジティブキャンバー。こうする理由は諸説ありますが、古い軽乗用車などは、乗車してバネがたわんだ際に適正な角度に戻るようにしたもの、とかハンドルを切った時の操舵力の軽減など様々で、最近はあまり極端なキャンバー角は見かけません。

ポジティブキャンバーをつけたタイヤは自然と外側に向かって転がって行こうとします。これを打ち消すために若干内股にセットするのがトーイン。逆がトーアウトです。後輪にこのトーインを与えるとブレーキング時に安定方向に、逆にトーアウトだと安定性が損なわれ、真っ直ぐ止まることが難しくなります。後輪を独立懸架にする場合は、サスペンションの変位でこのトーアウトにならないよう設計することが重要です。

固定軸を持つ後輪や一部の前輪にはキャンバーもトーインも見られないのはお分かりでしょうか?回転する軸がケースの中で位置決めされていて、片方だけ勝手な方向を向くことが出来ないからです。軽乗用の4輪駆動車には、コスト面から固定軸を使う場合がありますが、その安定した直進性は大きなクルマに匹敵する安心感をもたらしてくれます。

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