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ねばる(板)ばね・ダンピング機能も

最近ではサスペンション付き自転車も珍しくは無くなって来ましたが、クルマのサスペンションが無いとどうなるか?
試しに物凄く堅いサスペンションのスパルタンな古典的スポーツカー=ロータス・(現ケータハム)セブンに乗って、神宮外苑あたりの都心を走ってみましょう。路線バスも往来する交通量の多い路面が実は洗濯板のように浪打っているのに気づかされます。

乗用車に乗っていたときにはフラットで平らな道だと思っていた、ごく普通の舗装路です。時速も40kmに届くかどうかという程度、なのに車体は大げさに上下に揺すられます。F1中継などで、ドライバーたちが路面がバンピーだから、とか発言しているのが実によく理解できます。この揺れを押さえてフラットな乗り心地にしてくれるのもサスペンションの重要な役どころ、その主役はスプリングともうひとつダンパーです。

ではダンパーがなかったらどうなるでしょう?波打つ路面にあおられて車体はフワフワ上下を繰り返しながら、小舟の様に揺れが収まるのをじっと待つしかありません。スプリングは見るからに衝撃を吸収してくれそう・・・に見えますが、実は上下の激しい揺れを吸収してくれているのはショック・アブソーバー=ダンパーの方です。スプリングは車高や姿勢を保つ役割がメインです。

馬車にも使われた板バネでは板同士がこすれあうことで摩擦が生じ、多少のダンパー的効果が期待できました。でもダンパーがあれば一回大きく上下動しただけでほとんどの揺れは収まります。これがダンパーの役割ですが消耗もします。90年代にはFRP=グラスファイバーで強化した樹脂を板バネに使う試みもありました。板バネよりも設定範囲を広くできますが、耐久性・経年変化は未知数。採用例はまだ数えるばかりです。

(第二次世界大)戦前のクルマは、まだ現代のようなオイル封入式筒型ダンパーがなく、摩擦力を衝撃吸収に用いたカタツムリ型のショック・アブソーバーが使われていたものです。現代のテレスコピック(望遠鏡型)ダンパーはオイルで満たされたシリンダーの中をピストンが上下するもので、小さな穴をオイルが通りながら抵抗となって動こうとするピストンに抵抗を加えます。穴を広げれば柔らかく、逆なら硬いダンパー・セッティングに出来る道理です。リモート操作でこの硬さをコントロールできる電子制御ダンパーも今では珍しくありません。

スプリングが柔らかいと、衝撃を受けた車体の上下動は大きくなり、ダンパーの仕事量もそれだけ大きくなります。逆にスプリングが硬すぎると充分にバネが伸び縮みせず、ダンパーの仕事量も減ってしまいます・硬いバネには短い摺動で大きなエネルギーを吸収する硬めのダンパーが必要になるわけです。

ただ、こうすると細かい振動は吸収できず、路面がゴツゴツと感じられるでしょう。一部の製品にはガス室と二階建て構造にしたガス封入式もあり、細かい振動はガスが、大きな振動はオイルが受け持つタイプも存在します。乗用車の大半(特に前輪)サスにはダンパーとスプリングが一体となったストラット・タイプが採用されていて部品交換にはスプリングもろとも取り外す大工事になってしまいます。(バネは繰り返し流用)

さて、スプリングは板バネからコイル状のスプリングに変化し、懸架方式も様々考案されました。コイル状のほかにもトーション・バーという棒状のスプリングも旧くから使われています。渦巻きばねと同じく鋼材を使った一本の長い棒を捻ろうとする力、元に戻ろうとする反発力をスプリングの機能としたもので、あのフォルクスワーゲン・ビートルは最初からこの棒をスプリングとして使っていました。だからビートルの透視図を見ても板バネやコイル・バネは見当たりません。長い棒を上手く配置すれば省スペースにもつながり、小さな車には多用されたものです。さらに棒を固定する角度を変えるだけで簡単に車高を変えられるというメリットもあります。

鋼鉄製のバネより柔らかな乗り心地をめざしてエア・サスペンションも長年開発されています。1955年にシトロエンが発表したニューマチック・サスペンションは、空気を封じ込めた鉄の球をバネの代わりに、そしてサスペンションの動きはオイルが規制するという画期的な方法を実用化しました。オイルの量を調節すれば車高も自由自在、これでタイヤ交換のジャッキ・アップまで代用してしまうという優れものでした。

日本ではスバルが以前から車高調節のためのエア・サスを併用していますが、こちらのエアはエンジン駆動されるポンプで加圧されたもので車高も数十ミリの範囲ですが上下可能です。

鉄道車両では台車のバネに大きな空気枕を使うエア・サスが多く存在しますが、元々電車(気動車)は圧縮空気をドア開閉やブレーキのために年がら年中作り溜めておくので、供給源には困りません。が、クルマの場合は多くがエンジンで駆動されるポンプを併用するので、あまり普及はしていません。コイルバネや板バネのコスパは特に優れているので、なかなかこれを凌駕するバネは見つけ難いようです。

F1レースでアイルトン・セナの好敵手だったナイジェル・マンセルが快進撃できたのはウィリアムズ・ルノーFW14Bに搭載されたアクティブ・サスペンションが強力な助っ人役を演じたからでした。油圧で制御される四輪の動きを、カーブの半径、遠心力に合わせて、積極的に上下させて、理想的な接地状態を保とうというわけです。

この仕組みは日本の新幹線等の台車にも採用されており、カーブではわずかに外側の車体が持ち上がるようプログラムされています。セナの様に首を鍛えなくても超高速を快適に経験出来るのはこんな仕掛けも貢献しているんです

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