短命なオーディオ・デバイスの数々

今ではカーナビを搭載しない車選びは考えられないほど,ライト,ワイパーの上くらいに必須アイテムのカーナビ。この30年で,カーショップの売り上げにどれだけ貢献したかと思うと、電装品として欠かせない存在なのがカーナビです。

でも30年以上前はせいぜい高級なオーディオにお金掛けるくらいが関の山でした。価格の大衆化も然り。オーディオメーカーのパイオニアが初めて市販したナビゲーション・セットは液晶モニターも衛星受信機も別建てで,トータル50万円近い代物でした。だいいち2DINの倍はあろうかという機材を複数収めるスペースなんて、二人乗りのロードスターにはどう探したって見つからず,あきらめるしかありませんでした。

さて、カーナビ以前のカー・オーディオは?と思い出せるのはCDプレーヤーでしょうか?MD?カセット・デッキの時代?いえ,もっと前のカセット・テープ普及以前には8トラック・カートリッジの時代がありました。DVD映画のパッケージを厚めにしたくらいのカセット(カートリッジ)を出し入れする音楽再生プレーヤーで、あるいは田舎の祖父母のいる実家でカラオケ用のテープがこれだったのを覚えている人がいるかもしれません・・・・

運転しながら好きな場所で好きなタイミングで,お気に入りの音楽を聴きたい・・・・・ラジオ番組がリクエストに応じて音楽を流してくれるようになった頃と偶然にも8トラック・カーステレオの登場はシンクロしています。

放送局でも平成まで現役だった6ミリ幅のオープン・リール用磁気テープをエンドレスに繋いで,連続再生できるようにした自動車用のオーディオ機器です。巻き取ったテープのリールの芯に近いところから斜めにテープを引っ張り出して、ヘッドに磁気面を読み取らせる1ローター式。巻き取る外周とテープを繰り出す中心近くでは円周が違うじゃないかと気づいた人はさすが!です。実はテープの表面は特殊なすべり加工が施されていて、少しづつスライドしながらこの円周差を吸収していました。

8トラックもあるのは演奏時間が短いためで,左右ステレオに2トラックづつを使った4チャンネルで計8トラック,フェアレディZなど当時、新車のオプション装備としてはそこそこ普及したほうですが、あっという間にもっと小さなカセット・テープに取って代わられました。

CDが登場すると,程なくオート・チェンジャーが登場して,東名・名神を全線走りきっても、まだ聞き終えないくらい連続演奏時間が延びました。そしてMDデッキの短い時期を経てUSBやメモリー音源の登場,さらには通信環境が整えば,サブスク頼りの方向にと,これからも変化してゆくのでしょう。ほぼ10年毎に状況が変化し、20年前の機器は結局使い物になりません。

カーラジオもオーディオ音源としては古くから愛用されてきたものです。でも中波やFM電波の細かいチューニングを合わせるのは運転中だと困難かもしれません。知らない世代の方に説明しておくと,昔のラジオはバリアブル・コンデンサーと言う連続的に同調周波数を変化させる部品があって・・・・,いやもっと簡単に言えばボリュームとチューニングの二つのダイヤルだけで操作が完結したものです。カーラジオには大抵さらに5つくらいの四角いボタンが並んでいて、これが今日で言うプリセット選局ボタンになります。ボタンを押せばあらかじめセットしておいた周波数のところに磁石の力でダイヤルが瞬時に移動、これでラジオ局をワンタッチで選べたわけです。プリセット方法はダイヤルで位置決めした場所でプリセットボタンを手前に引き、その場で押し込む。これだけです。

マイクロプロセッサーを使ったシンセサイザー・チューナーが普及してからは,このボタンに久しくお目にかかっていません。東京で聞こえるFM局が増えた頃には大抵のクルマの選局は黒い四角いボタンの無い電子チューナーになっていました。

カーラジオ、オーディオ類の搭載位置は左右どちらからも手を伸ばして操作できる様、大概センターコンソール上のどこかにあります。が、意表をついてルーフの中央にカセットデッキ・チューナーを装着した製品がありました。コクピット感覚が味わえて場所的にも飛行機のオーバーヘッドコンソールの位置にスイッチ類が整然と並び・・・・・サンルーフと同時装着は出来ませんが、ムードを盛り上げる効果は充分以上だった逸品です。(ナショナル COCKPIT RM-700等)コスモスポーツやホンダ1300クーペのフライト・コクピット風インテリアに装着したら最高の組み合わせでしょう。まあ、今なら天井から液晶パネル一枚ぶら下げれば済んでしまう機能ではありますが・・・・・

クルマでの通勤人口が遥かに日本より多いアメリカではFMステーションも多いばかりでなく,ポッド・キャストの配信番組も日本より需要が高く、運転中に情報を得られる音声コンテンツの重要性が認められています。
これまでのようなパッケージを持ち込むスタイルもやがてはネット通信でストリーミングしながら、というのが主流になるかも知れません。

リアシートの後ろのトレイにこれ見よがしに置いた大きなスピーカーセットも、フライトコクピット・スタイルで雰囲気を盛り上げたあのハードウェアも,懐かしい思い出の品として液晶パネルの向こう側に消えていくのでしょう・・・・・

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