女子にもやさしいメカ解説・動弁機構

4サイクルエンジンの吸入・圧縮・爆発・排気の四行程、この最初の行程で混合気をエンジンに吸い込む時だけに上手く吸気バルブが開くような仕掛けが必要です。排気バルブも同様。


おむすび型び方ピストンが回転するロータリー・エンジンにはバルブ機構がありません。一回転ごとに毎回爆発が起こる2ストローク・エンジンも同様。初代ジムニーやスズキのアルト、スバル360はこのタイプでした。なぜバルブが無いかといえばピストンがシリンダーに開いた吸気口を開閉する役目を担っていたからで、吸・排気口はピストンで隠される時以外は丁度、吸入あるいは排気行程に当たっていたのでバルブは不要でした。

さて、最低でも二本あるバルブをどうやって開け閉めするか?もちろんエンジン回転と正確にシンクロしていなければなりません。最初はカム軸と長いバルブの棒だけの組み合わせ;サイド・バルブという古い形式が普通でしたが、これはシリンダーのてっぺんで空気の向きが変わりとても効率の悪いやり方でした。で、バルブをシリンダーのてっぺんに置きたい!というのでオーバー・ヘッド・バルブ方式=OHVが開発されました。ハーレーのVツイン・エンジンの横っ腹に二本づつ4本のパイプが延びているのもそれの象徴で、この中にプッシュ・ロッドという長いつっかえ棒が入っています。下にはエンジンの半分の回転数で回るカム軸があり上の端はテコの原理でバルブを押し下げる仕掛けになっています。

エンジンが回転するなかで吸入のタイミングを迎えるとカム軸にセットされた、なだらかなおむすび型の山がプッシュ・ロッドを押し上げ、その間だけ、テコで吸入バルブが押し下げられる仕掛けです。バルブが下がるとそこに出来た隙間から混合気がシリンダーの中に流入。

エンジンがもう一回転半すると排気のタイミングで、'カムは4分の3回ります)排気バルブが開くようなカム山があります。エンジン2回転の4行程の間にカム軸は1回転。その360度のあいだに適切なタイミングのカム山を作ってやればよいわけです。

バルブを上に持つOHVで、エンジンはだいぶ高性能(高回転)化しました。燃焼室の形を球形に近づけると効率が上がって径の大きなバルブに出来るからです。サイド・バルブの変形した燃焼室では適わぬパワーでした。でも、さらにエンジン回転を上げたい!となるとカム軸から先、プッシュ・ロッドやその先のロッカー・アームというテコの重さが邪魔になってきます。

何とかカム軸とバルブを近くに置けないか?と生まれたのが、オーバーヘッ・ドカム=(シングル)OHC機構です。問題はどうやって頭の上にあるカム軸まで正確に回転を伝えるか?最初に考えたのは何枚もギアを並べて、順に回転を伝えるギア・トレイン方式でした。今でも採用例がありますが、何枚もギアが要るため高価で重い。そこで、チェーンを使ってカム軸を回そうとしました。古い時代のチェーンは伸びたり切れたり、厄介者でしたが、信頼性が上がるとチェーン・ドライブのOHCが完成。

さらに70年代になると、騒音の出にくいコッグド・ベルトというギザギザの歯形をもった繊維と樹脂製のベルトが使われ始めます。エンジンが静かになり軽量化も。しかし樹脂製部品の泣き所である耐久性は充分ではなく10万キロも経たずに破断するケースが出てきました。なので、再びチェーンに逆戻り・・・・サイレント・チェーンという新種も開発されています。

吸入と排気、別々にカムをまわしてカム山で直接バルブをたたけばもっと高回転化できる、と生み出されたのがDOHC、ダブルオーバーヘッドカム機構です。カムシャフトが二本なのでツイン・カム、カムは増えてもバルブまでの機構が不要なので、高回転化が可能です。ホンダの4輪市販車には最初から使われた機構で、市販エンジンでも9千回転まで回せたものです。バルブの数も2つより4つ、果ては吸気を3つのバルブで賄うバルブさえ登場しました。(楕円ピストンと組み合わせた8バルブも!)

他方で、アメリカの大排気量V型8気筒エンジンなどは多くがOHVのまま。レース用のエンジンさえOHVが見受けられます。高回転をさほど必要としないエンジンならわざわざ重く大仕掛けのDOHCにしなくとも排気量を増やしてやればいいからです。V型だろうが水平対向だろうが一本のカム軸で4本や8本気筒分のバルブを開け閉めできるのは、真ん中に置くだけで左右にプッシュ・ロッドを伸ばせば済むシンプルな機構ゆえのもの。

2本あるカムシャフトのまわし方も工夫され、チェーンとギアを組み合わせたシザーズギア方式によって日本のツインカム化は当たり前のような存在になりました。

カムシャフトにどんなカーブのカム山をセットするか?昔は名チューナーたちの腕の見せ所でした。でも、低速向けで運転しやすいカムと高性能で馬力は強いがガスを食うカムとではその形も大きく違ってきます。両方のいいトコ取りは出来ないものか?

ホンダは考えました。一本のカム軸に二種類のカム山を持つV-TECエンジンの登場です。ある回転域を境にエンジンが豹変したかのように性格を変え、二種のカム山の性格を持つジキルとハイド的なエンジンです。これにはライバルも数多くの機構を考え出し、続々商品化されました。

BMWなどはカムの山を替えることなく、その頂点が来るタイミングを可変式としたバルブ・マチック機構を開発しました。さらに驚くべきは、バルブの開くタイミングも、その開閉量も可変式としてしまい、ついにはアクセル・ペダル(に繋がったスロットルバタフライ)の役割まで担うようにしてしまったことです。アクセル・ペダルは、もはやただセンサーを動かすだけのスイッチです。

アクセルワイヤーが切れたから、と長い紐を引っ張ってエンジン回転を操っていたのは遠い昔の話。ステップモーターを動かせればアクセルペダルをどこに置こうが構わない理屈です。そして電子回路が自在に(右足と関係なく)それを操ることだって・・・・

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