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動力をコネクトする

ガソリンを含んだ混合気はシリンダー内で圧縮され・爆発することで一気に燃え上がり、急速に膨張して体積を増やします。この圧力をピストンが受け止めて下に押し下げる物凄い力が発生します。ピストンの運動は上下方向に往復するだけなので、これを回転する力に変えるのがクランクシャフトの役目です。

自転車で言えば左右のペダルと、それを踏みつける足首の関係でコンロッドと呼ばれるパーツは、自転車と脚に喩えれば脛(すね)にあたる部分でしょうか。

4気筒直列のエンジンならコの字型のいびつな形の長いシャフトが思い浮かべられます。これが180度回るごとに、4つのうちひとつのピストンが爆発行程に当たるわけで、もう180度回転すると別のピストンが再びクランクシャフトを物凄い力で回そうとします。自転車は180度ごとにペダルに入力されるので、いわば2ストローク2気筒?。古いスバル360と同様です。4気筒はこれを二つ横に並べて二回のうち一回は休む姿を想像してみてください。

ピストンもコンロッドも精密に作られてはいますが厳密には個体差がある・・・・それを手作業で均等な重さや寸法に揃え、エンジンを組み直すチューナーという職業が生まれました。BMWのチューナーで知られるアルピナやベンツのチューナーだったAMGなどは、今や自動車メーカーとして、独自開発の車体や生産まで行うほどの成長ぶりを見せています。欧州にはこの種の会社が幾つも存在し、ミニの人気を高めたクーパーやルノーのゴーディニ、イタリアのアバルトも自社開発のクルマを持つ有名ブランドです。

さて、アメリカ車の大型V型8気筒やフェラーリのような12気筒のV型エンジンとなるとクランク軸も途方も無い長さになってしまいます。そこでコンロッドが繋がる太い軸の部分(自転車で言えばペダルの回転軸)を二本分ごとに共有し、シリンダーを二列に並べてエンジンの全長が伸びるのを押さえています。V12フェラーリとてエンジン・ルームの長さは直列6気筒エンジン程度のスペースで済むわけです。

ポルシェの水平対向6気筒エンジンも3気筒分まとめたシリンダーを左右に広げた形。ビートルのかぶと虫はこの2/3です。ただ向かい合った相方のピストンは左右対称に動くためクランクシャフトは直列4気筒とは形も違ってきます。

VWが旧型ゴルフに採用した狭角V型5気筒は、エンジンの長さは3気筒分、すき間を埋めるような位置に残り二本のシリンダーを並べています。横置きエンジンのゴルフなのでシリンダーを5つも直列に並べたら幅が広くなりすぎて困ります。コンパクトな場所に多くのシリンダーが並ぶ反面、144度の回転ごとに爆発が起こるよう、クランクシャフトはもっと複雑な形になってしまいます。直列4気筒なら平面図を描くのも容易ですが、ココまで複雑な立体の鋳物を正確に作るとなると、精密な工作技術や測定も必要になってきます。

最近増えてきた直列3気筒エンジンもクランク軸は120度間隔でピストンが上下するように立体的な造形となっています。回転バランスも単純な4気筒とは異なり、バランサーなどを付加してやらないと大きく振動してしまいます。これが解決出来たからこそ、今増えているわけですが。

ほかにユニークな配列としては狭角V型6気筒と、それを横に二つ並べた形のW12気筒エンジンがあります。いずれもVWアウディグループの手になるもので、そういえば最初の直列5気筒エンジンもアウディ・クワトロ(初代)に積まれて世界ラリー選手権で大暴れしたものでした。ホンダも直列5気筒の前輪駆動を実用化していますが、後にフツーなV型6気筒に置き換えられています。

点火装置が不安定だった大昔はシリンダー数が多いほど安定したなめらかな回転が保たれ、ある種のステータスにもなっていましたが、この考えは今や巧みな設計と技術により過去の遺物となりつつあります。12気筒のサウンド・滑らかさを堪能したければ今のうち。是非お早目のご検討を

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