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東西?それとも南北?エンジンの向き


昔の車はボンネットを開ければエンジンの左右に地面がしっかりと見えたものでした。だから工具を落としても上から発見可能です。なぜなら、エンジンの向きが縦(前後)方向、クルマの進行方向と同じ(南北)に延びる形だったからで、エンジン左右のスペースは一見すると無駄にも思えました。クラシックカーから軽トラ、フォードやトヨタのランクル(ランド・クルーザー)など大きなSUVは今も縦に置いたエンジンから床下にプロペラ・シャフトが伸び、その先は後ろの車軸に繋がります。逆にエンジンの直下にある車輪を回す前輪駆動やリア・エンジン車では横置きエンジンが主流。(ポルシェやかぶと虫の例外もありますが)

縦に長い直列エンジンは長いクランクシャフトの捻れや耐久性が気になりますが、一番気になるのはスペース効率です。エンジン両脇の地面が見えるのはその分、エンジン左右に余裕があるわけで、Ⅴ型8気筒や12気筒エンジンは、こうした無駄の解消から生まれました。6気筒といえば静かでスムーズな回転が上級車の象徴だったのが、これもやがて直列からV型に変化。日本車の乗用車カタログからは現在直6エンジンの搭載車が消えています。

いっぽう、ホンダN360やスバル360のエンジンを見てみると、車軸と平行、つまり電車なら枕木と平行の横置き(東西方向)にシリンダーが並んでいます。バイクのエンジンも多くはこの横置きです。4気筒エンジンを横置きするVWゴルフにはこれ以上横に長いエンジンを納めるスペースがなく、もっとシリンダーや排気量を増やすには・・・・と特殊なV型6気筒やⅤ型5気筒のエンジンを新たに開発しました。これらはV型に開く二列のシリンダーを限りなく近づけた上でエンジンを3気筒並みの幅に押さえています。

VWグループ参加当初の旧いアウディ80は前輪駆動ながらもエンジンは縦置きで、前後寸法はエンジンルーム一杯。そこでエンジンの前にあったラジエーターを横にずらして、シリンダー1本分の増設に成功しました。エンジン後ろに並んだ縦置きミッションにプロペラシャフトを付け足せば前後輪とも駆動できる配置だったので、アウディ・クワトロという直列5気筒・ターボ付き4輪駆動の新型車に装備して世界ラリー選手権に出場しました。

今日に至るAUDIブランド躍進のスタートは、このクワトロの快進撃だったといっても過言ではありません。開発したのは御大フェルディナンド・ポルシェ博士の娘の子、フェルディナンド・ピエヒ氏。独特の5気筒72度間隔のビート音はホンダやルノーがF1用に作ったⅤ型10気筒エンジンのそれとも相通じる個性があって、異彩を放っていました。同じサウンドが聞きたくなったらホンダ・アコードインスパイア(初代)かレクサスLF-A(どちらも中古)を買うという手もあります。見つかれば、の話ですが

安全重視のボディ+後輪駆動が看板だったボルボもいつしか前輪駆動の信者に。長い直列5,6気筒エンジンをそのままエンジンルームに横置きしていました。が、これは車体横幅サイズの広いボディだから為せる業。大半の小型車ならやはり4気筒止まりですが、電気モーターならこの呪縛からも逃れられます。

プロペラシャフトのない前輪駆動やリア・エンジンだと、重いシャフトを回す必要もなく床板を低くすることが出来る!と、日本の軽自動車から世界の小型車までが続々と採用しました。80年代の国産乗用車でもプロペラ・シャフトを持っていた旧型車が続々と前輪駆動化し、フロント・エンジン、リア・ドライブのオーソドックスなクルマは数えるほどになっています。敢えて前のエンジンで後輪を駆動する理由は前後の車輪の重量差が小さいこと、重量バランスに長けているのでコーナリングでのハンドリング特性が自然なものになりやすいから、と説明されます。

この特徴にこだわり始めると重く大きなエンジンをなるべく車体の中央近くに置きたくなってきます。ミッドシップ配置という、ホンダや過去のフェラーリ、今のロータスなどが好んで使う手法です。本来ならリアシートのある場所に横置きのエンジンを置いて、後輪を駆動させたら、・・・・トンデモナイ、モンスター・マシンが誕生しました。ルノーサンク(5)・ターボという車で世界ラリー選手権での活躍という手法はたちまちライバルたちにも真似されました。

前輪駆動車が増え始めると、後輪駆動の消滅を惜しむ声も上がります。それならばと、フロントにあったエンジンを後ろにもって行ったのがフィアットX1-9やトヨタMR-2、ポンティアック・フィエロ、それにホンダ・ビート,NSX、オートザム・AZ-1などミッドシップ車の新星たちでした。エンジンも駆動系も量販車のまま、だから専用部品はボディだけ。操縦性が良くなったかどうかは置いておくとして、耳の後ろで鳴り響く強烈なエンジン音、ハコ(乗用車)に比べて一枚余計に必要な隔壁と防音対策。絶望的なトランク・スペースと欠点ばかりが目立つ結果となってしまい、日産のプロトタイプ=MID-4はついに陽の目を見ずに終りました。唯一トヨタとホンダだけが二世代目以降にバトンを引き継ぐことに成功はしていますが・・・・・

EVの時代になるとモーターを車輪ごとに分散配置することさえ可能になるので、ミッドシップと言う概念は今のうちだけになるかもしれません。人気のホンダS660は既に、生産終了分まで売り切れ。あとは一桁値段の違うNSXを選ぶしか・・・・・・

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