(昭和のうちに)みんな前へ〜倣え

昭和50年代の国産車はオイルショックを生き抜き厳しい排気ガス規制も乗り越えて世界に並ぶクオリティ獲得に躍起となっていました。その大改革の柱となったのがFF化。前輪駆動方式への転換でした。

スバルやシビックは当初からFFでしたが、大衆車クラスから2リッターまで、各社相次ぎプロペラシャフトがなく軽量化と室内拡大が図れるFFを取り入れます。お手本としたFFには幾つかの方法論があって英国ミニの二階建て方式は日産チェリーやホンダN360がお手本とします。スバルの縦置きエンジン+縦置きミッションは古くからフランス車にある古典的ながらやや特殊な流儀で、いまもあまり採用例が増えないものの四輪駆動化には最適な方法でもありました。

そして大多数の日本車はジアコーザ式と呼ばれるフィアットに倣った方法を採ります。フードを開けるとエンジンとミッションが左右に並び、ホンダ・ライフがい早くから採用してホンダ車のデファクトに。三菱もマツダも日産もやがてはこの方式に倣う事になりますが、トヨタだけは当初FF化に慎重でした。

在来車種のスターレットやカローラをFFにする前にその中間クラスとなるターセル、コルサという新規車種を白紙から開発しました。スバルのようにミッションは縦置きで、メカニック達がこれまでの手法でクラッチ交換ができる事を重視しました。でもスバルの場合はエンジンが前車軸より前にはみ出します。従来通りの4気筒エンジンではエンジンルームをうんと延長しないといけません。Audi80などはラジエーターを脇に追いやって5気筒エンジンをここに収めます。

そこでトヨタは2層構造にしたユニークなトランスミッションの前半分にコンパクトに収めた新規エンジンのA型を置くようなレイアウトで、前後の長さを抑えつつ、整備性にも留意した半二階建てを開発しました。
副産物としてスバル同様四駆の為のプロペラシャフト増設も簡単で、スプリンター・カリブというRVブームの牽引役が生まれます。販売店は違えどコルサ・ターセルの仲間です。

エンジン・ルームにタップリ横幅が確保できればジアコーザ式のように車軸と平行になるよう、エンジンとミッションを直列に配置できますが、この方式では左右のタイヤに繋がる車軸を均等な長さに揃えられず、色々問題を起こしやすくなってしまいます。この点スバルやコルサ、ターセルの縦置きは左右対称で車幅が狭くても搭載できます。

慎重派のトヨタが次にFF化したのはコロナに近いサイズの新型車カムリ、ビスタでした。今度は幅にも余裕があるので新規エンジンS型をジアコーザ方式で前輪に繋ぎます。これ以降のトヨタ車はこうして横置きを全面採用する事になり、カローラもコロナもこの方式に倣う事になります。

ユニークな縦置き半二階建て構造は二代で途切れますが、ホンダが新規大型セダン、アコード・インスパイアの開発でよく似た構想の方式を採用し、エンジンが前に飛び出さず重量配分が前に偏り過ぎない動力系を実現させたものでした。これはエンジンの下半分を片方のドライブシャフトが貫通する思い切った方法で、一部ドイツ車の四輪駆動化でも使われた手法でした。が、やはり普通の横置きにとって代わられてしまいました。

10年以上にわたる国産車FF化では結局横置き直列のジアコーザ式に軍配があがりましたが、スバルだけは軽を除いてずっと縦置きを貫いているのが特徴です。

電気モーターの時代を迎えるにあたって再び後輪駆動が脚光を浴びています。エンジンよりも小型のモーターは置き場所を問わず,後輪を駆動すれば前輪はドライブシャフトから解放されてハンドルの切れが大きくなることから小回り性も向上します。

これはもっと大型のトヨタミライも同様でEV時代にはドリフト向きの車が充実するかもしれません!

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