羽根つきなら安心?

F1マシンの前後についている大きな羽根、ウィングが生み出す力は強大で1.5㌧もの重量を持ち上げる位の力を秘めています。路上ではこの力を下向きに働かせてタイヤを路面にグッと押し付け、カーブや加速、ブレーキング時にもタイヤが滑らないよう重要な役割を果たしています。

レーシングカーでいち早くウィングを取り入れたのはアメリカのシャパラルが有名で、当時は怪鳥とあだ名され、瞬くまにF1やほかのカテゴリーにも取り入れられました。日本では日産のR381がシャパラルとよく似たウィングを持ち、当時の日本グランプリを制したものです。

市販車にもこうしたダウンフォース効果を得ようとリアに大きなウィングをつけることが流行ります。1970年ごろの日本車でも多くの車種にはトランクにつけるウィングやスポイラーがオプション設定されました。が、もっとも有名なのはポルシェ930ターボの巨大なウィング(インタークーラーカバー)でしょう。では何故ウィングが必要なのか?

今から20年も前,audiが発表したおしゃれなクーペ,TTに試乗したジャーナリストらが相次ぎ高速走行中に安定を失い、衝突事故に巻き込まれるケースが続きました。お正月のお供え餅のようななだらかなリアの造形が、車のリアを持ち上げ、後輪の接地力を弱めたのが原因との見方が有力です。930もバンパーまでなだらかに連なる造形ではありますが、巨大なウィングは下向きの力=ダウンフォースを生むため、後輪は地面にしっかり押し付けられ、同じようなトラブルを防いでいました。

クルマの後輪はたとえ前輪駆動の車であっても車をまっすぐに走らせるのに需要な役割を担っています。4輪とも操舵する車もあるにはありますが原則、高速直進安定性を担保するには後輪が路面から離れないよう、正確に位置決めされ、しっかり接地させることが重要です。

リアに装備されたウィングだけでなく、フロントバンパー下に突き出したリップスポイラーも少なからぬ効果を生み出します。リアウィングが効力を発揮するのは時速100km以上とも言われていますが、フロントスポイラー(エアダム)はもっと高速でないと真価を発揮しません。でも僅か70馬力のヴィッツでさえ、前輪の手前にホンの1インチほど、突き出したスポイラーを付けると、前輪に直接あたる風の抵抗をやわらげ最高速を170kmから5kmほど上乗せすることが出来ました。これがレースではとても大きな差となります。

近年の2ボックス車には最初からルーフ・スポイラーがデザインに織り込まれていますが、コレはダウンフォースだけでなく、空気抵抗をも減らす目的のものです。ルーフを流れ降りてきた空気をそのまま後方遠くまで誘導して、あたかも長いルーフを持つような整流効果を与えています。決して直射日光が差し込むのを防ぐのが主目的ではありません。

1950年代のアメリカ車やベンツ、日本車を見るとリアに垂直な尾翼のように伸びるテールフィンという装飾を目にします。当時はジェット旅客機の第1世代、ボーイング707やダグラウスDC-8といった後退翼を持つ新デザインが新しい時代の象徴のように強いインパクトを与え、バンパーにもジェットエンジンンの吸排気口のような飾りを見つけることもできます。これらはどれもイメージ先行、直進安定性に若干は寄与したかもしれませんが・・・・・

虚飾ゆえにすたれるのも早く、60年代にはおおかた姿を消しました。が、ここ数年のレースカーを見ると、操縦席からリアウィングまで垂直につながる垂直安定板がみられるようになり、半世紀前のテールフィンの名残とも思えるノスタルジーを感じさせてくれています。

50年代を知らない方にはピンと来ないかもしれませんが…昭和ではなく1950年代の話です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?