柔よく剛を制す

自動車デザインの変遷にはいくつかの節目がありました。恐竜のようなテールフィンの時代、コークボトルの形を真似たマッスルカーの時代、グリーンハウスを大きく採ったルーミーなデザインへの変身と、初代ゴルフが提案した折り紙細工と揶揄される直線基調・・・・・・・・・

ひとつの転機=オイルショックのみならず、アメリカを中心にカー・デザインを大きく変えたパーツがありました。どの車にも前後についている鉄製のバンパーです。

本来は車体が傷つくのを防ぐためのものですが、このバンパーがポンティアックGTOやフォード・サンダーバードなどの大胆なデザイン採用とともに、ボディに取り込まれて機能しなくなり、軽い衝突でも補修費が高くつくために保険料が急騰するという問題が起きました。

そこで、メーカーに時速5マイル,8km/hでぶつかっても損傷しないバンパーの装着がアメリカで義務付けられました。輸入されてくる日本車も同様の基準です。銀メッキで飾り立てられたバンパーの背後には油圧で衝撃を吸収するショックアブソーバーが仕込まれて、軽い衝撃をここで吸収、車体が損傷しないようにしたのです。

1974年ごろから日本車でも国内向けにこの5マイルバンパーという衝撃吸収式のバンパーをオプション装備できる車種が急増しました。もちろん車重も全長も大きく数字が変わってきます。当然価格も。

無骨な大きいバンパーはしかしながら、カッコいいアイテムとしても人気で、ポルシェ930やVWゴルフも、こうしたビッグバンパー顔が増えていきます。他方、アメリカ国内では古い車のバンパー前面に大きな水の入った水のタンクを抱えて、ぶつかると衝撃で中の水が蓋を跳ね飛ばしてピューっと飛び出す簡易5マイルバンパーなどというアクセサリーも出回りました。主にタクシーが使っていましたが・・・・・

80年代には油圧で動くダンパーの代わりに衝撃を吸収する柔らかな樹脂製部品をプラスチックの柔らかい素材で覆う新しいタイプのバンパーが開発され、銀メッキの鋼鉄製バンパーは徐々に姿を消してゆきます。

人気のアメリカ車~ファイアーバード・トランザムの顔つきを年代ごとに並べてみると1970年にはバンパーレスのダイナミックな造形だったのが74年モデルからは大きな5マイルバンパーがダイナミックさに水を差し、80年代を迎えると再びボディ同色の一体型バンパーで迫力ある顔つきを取り戻すことに成功しています。

実は日本にも同じ試みをしました先達がいて、初代セリカのST/GTトリムにはボディ同色のエラストマ素材で作られた、ソフトなバンパーが用意されていました。が、鉄以外の素材に塗装した塗料は色合いを揃えるのが難しく、二代目セリカでは太い無骨な樹脂製のバンパーが出っ張っていたものです。

大きな一体成型もののバンパーですが、今やこれ無くしては自動車デザインは語れない存在になっています。

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