テールヘビーは憧れ?ルーズならプッシュしな!

ハンドルを切ればタイヤが旋回半径の中心に向いて車体の向きを変える、すると後輪も車体とともに向きを変えて進路が変わる。理想はそうですが現実には路面の状態次第でスリップもすれば計算どおりに曲がらないこともあります。

雑誌のインプレッションに良くある、弱アンダーステアとはどういう状態なのか?なぜそうなるのか?普通の市街地では良く判りません。が、一番実感できる場所は雪道のコーナリングでしょうか。カーブに合わせてハンドルを切っても前輪が思うように切れ込んでくれない、外側にずれていくような感覚が感じられたらアンダーステアです。逆にお尻が外に滑り出して車体が内側を向いてしまうのがオーバーステア。

アメリカのレーサーたちはルーズとかプッシュとかいった言葉を使います。プッシュはリアの押しが強すぎてステアしたとおりに曲がらない,つまりアンダーと同義語。ルーズはお尻がグリップを失ってドリフトするような姿勢になることです。

60年代にはスリムでタイトだったポルシェ911のテールがターボの登場で思い切り外側にふくらみ,太いタイヤを履く様になったのは、重たいエンジンが後ろにあるため、コーナリングではとりわけ後輪の接地力が求められたから。不足するとリアが「ルーズ」になって、オーバーステア、つまり逆ハンドルを切らないと困るような状況に陥るのを防ぐ必要があったからです。

ドリフトしながらきれいにコーナリングしているクルマの前輪を良く見てみると旋回している方向とは逆に向いているのがお分かりでしょう?船橋にあったサーキット跡地で開催されているオートレースのコーナリングを見てみると良く判ると思います。一般路でこんなドリフト姿勢になり易くてはメーカーとしては問題なので、エンジニアたちはどちらかといえばアンダーが出る方向にセットするものです。

後輪駆動を重視するメーカーは、前後重量配分にこだわります。50:50ならば前後輪に掛かる遠心力も等しく、最後まで綺麗な軌跡を描いて曲がることが出来ると言う理屈ですが、エンジンを前に置く限りフリントヘビーは避けられません。

そこでアルファロメオも,やがてポルシェもエンジンを前に置いたまま変速機をプロペラシャフトの後ろに置くトランスアクスルを採用して,50:50に近づける配置を採りました。シフトアップのたびに長いプロペラシャフトごと回転数を変えなければならないのはハンデでしたが、大きなトランスミッションはリアシートの下辺りにあるのでフロントの足回りにも多少余裕が生まれ,ホンの少し居住性アップにも繋がります。

アルファの場合は前輪駆動に移行するまでの間、またポルシェは924や944、928を次世代の主力にと目論んでいたようですが911のリアエンジンを支持する声は絶えるどころかポルシェの貴重な屋台骨に。タクシー用にも多用されるフツーなブルーバードでも雪道の広い交差点で、上手くすればハンドルをあまり回さずともアクセルの操作でキレイにカーブ出来たのは後輪駆動の極上の楽しみの一つです。

前輪駆動の操縦性が成熟されるまではこんな試みも評価されたものでしたが,やがて右も左も前輪駆動の80年代へ、スポーツ・ドライビングに後輪駆動は不可欠のものと考えた技術者たちはFFの動力系をそのままリアに平行移動した量産型のミッドシップに光明を見出そうとしました。重量配分はやや後ろが重いテールヘビー。ですが前輪はエンジンの重さからも駆動の役目からも解放されてハンドリングを堪能できるメリットが。エンジンの無いフロントフードは低く抑えることができ、前方視界も空気抵抗にも有利に働きます。

反面、リアシートを設けるのは困難で、頭のすぐ後ろで回るエンジンの騒音は相当のもの。エンジンルームを仕切る隔壁が余計に必要とあってボディ重量もかさみ、荷物スペースを設けるのも困難、と実用セダンとしては通用せず,もっぱらハンドリングを楽しむのが主目的の限られた需要しか発掘できませんでした。

日本には一時期HONDA・ビート,TOYOTAMR-2,ホンダNSXやオートザム(マツダ)AZ-1と量産ミッドシップ大国だった時代がありました。ホンダにはほかにも床下エンジンを後輪手前に置いたTNトラックやホンダZ(二代目)がありましたが、後輪近くにエンジンを置く後輪駆動は三菱i以降,今のとこ国内には現れていません。

以降、時代はFFスポーツなる言葉を生み,フロント・ヘビーのままのFF2BOXのハッチバックがホット・ハッチとして人気となる時代を迎えるのです。

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