工事中立ち入り禁止の看板の追っかけをする
中学生のとき、とあるバンドのファンでした。メンバーに遭遇できるチャンスに賭けて猛勉強し、バンドメンバーの出身高校に合格。ぷらっと入った部活の外部コーチがなんとバンドメンバーのご親族の方でした。想いと執念が運命を超える。今回も似たような話です。
先日新横浜駅を利用して、気になった掲示物がありました。
現在新横浜駅(横浜市鉄ブルーラインの方)では改修工事が行われていて、駅構内のあちらこちらに掲示されているのです。
表情はなく、記号を組み合わせたような単純なつくりをしているのに、手の造形がやたらこだわりを持って描かれているのがなんとも印象的な一枚です。
明らかに建設会社か駅員さんかがofficeソフトで素材を切り貼りしてつくったんだろうなという感じも好きで写真を撮りました。
それからしばらく経ち、今度はブルーライン横浜駅のサイン工事が始まり、彼と再会します。
どうも様子が違う。比べてみましょう。
新横浜(上)は手が大きくて首をすくめていてひょうきんな感じ。きっと口は小さくすぼめているタイプ。
横浜(下)はきちっとしていて真面目そうです。小さい体に大きな責任感を背負っているような。
心なしかハンサムに見える。
なぜ同じイラスト素材でこうも受ける印象が違うかというと、どうも単なる画像の拡大縮小では起こらないようなブレが見受けられるからなんです。
ヘルメットを被せる比率とか
ヘルメットの左右のバランスとか
腕に塗り残しがある!とか
つまりこの掲示物を作ってるひとは素材を切り貼りするだけじゃなく、
意図的であるかどうかはさておき、そもそもの素材から作っている、のかもしれないということです。
工事業者の掲示物作成係さんだか駅員さんだかが、恐らくペイントソフトやofficeを駆使してこだわりぬいた工事中立ち入り禁止…
その姿を想像するとなんだか胸ドキドキしてきました。これが恋かな。
折しも世間はオリンピックに向けてあちこち改修工事中。彼の仲間たちに会いに行くチャンスかもしれません。
さて、今回彼を見つけたのはどちらも横浜市鉄ブルーラインの駅構内。ブルーラインは全部で32駅と、そんなに長い線ではないのですべての駅を見に行くことにしました。
ホームで工事中のお知らせを発見!
掲示物なし。
ここは文字だけ。
擬人化(?)だ。惜しい!
大きい工事のところは本物がいました。実写だ。
そして半分を過ぎた頃関内駅にて。
いた!
しかも先に見つけたふたつのとはまた違って、片腕のみ塗り残しがあるタイプです。
並べてみると、思ったよりも違うことがわかるかと思います。
結局そのあとは新しく見つけることはできず、32駅中3駅と残念な結果に終わってしまいました。
それならば、と3駅の工事を担当している建設会社を調べたところ、とある横浜市の会社が浮上。
この会社が携わっている工事現場を見に行けばいいんだと次の目星をつけた翌日、またしても運命の再会を果たします。
場所は上野御徒町駅。
関内駅パターンに酷似していますが、顔色が少し違うようです。
横浜の建設会社が上野御徒町の工事まで受注しているとは考えにくいため、彼は複数の建設会社で使われている素材だと言えそうです。
こうなるといったいどこまでの範囲で彼が出没するのか、あちこちの工事現場を巡って探すのはあまり得策でないような気がします。なのでインターネット上で彼の痕跡を探してみます。画像検索をかけるといくつか写真が見つかりました。
画像検索ってすごいですね…。検索結果に上がる数は少ないものの、5年以上前から日本のあちこちで使われているようです。
また、周りの枠や文字の雰囲気から、彼だけでなく周りの素材もすべて含めてセットで使われているのでは、と推測できます。
そこで「工事中注意 看板 作成 ソフト」で調べたところ、いくつか出てきました。
さすがにこの中から見つけるのは難しいかな~と思いながらもドラッグを続けると、
なんとなく見覚えのある色合いが。
トップページに移ります。
あ!!
いるなー!!!
お試し用をダウンロードすると、見知った面々が。ひとつひとつの掲示物がExcelのシート上で作られていて、目的にあわせてカスタマイズできるようです。すごいぞ表計算ソフトExcel!
これは横浜駅タイプですね。
かすかに片腕だけ塗り残されている関内駅タイプも見つけました。
発行元からしてバラバラなだけだったんだな…と少しガッカリしていると
まさかのグループ構成!一枚のイラストじゃないんだ…
恐る恐るグループ化を解除してみます。
ぐわ!
何がどうしてこうなった。
ガタガタに閉じられた腕、青いモジョモジョ。
塗りつぶしツールを使おうとしてうまく使えなかったのか…?
ここまでくると逆になぜ手のひらだけこんなに凝った(全部曲線で描かれているし、きちんと塗りつぶされている)ことが出来たのか不思議な気もする。これだけ課の先輩が作ってくれたのかな…
完全に予想の斜め上を行く内情、見れば見るほど想像が膨らみ愛おしさがこみ上げます。
というわけで結論としてはソフトの作成元の愛すべき粗雑さによって彼らの多様性が生まれていることがわかりました。普通のデザイン会社とかだったらめちゃくちゃ叱られそう。
でももはやこれは日常における隠しコマンド的な、ただの工事現場の掲示物という均質さを疑う必要がないものが少しずつブレているバグっぽさが楽しいわけで、ぜひこのまま日本各地でちょっとずつブレ続けていてほしいと思います。
そして上野御徒町で見かけてから2週間後、ちょっとおしゃれした彼と横浜市内で再会。
街中で知人に偶然出会った嬉しさがあって非常によいものです。
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