障害者が宿泊施設を探すコツ

2014年、日本は国連障害者権利条約を締結したので、一応、障害者差別はあってはならないことになりました。
それから5年が経過しましたけれども、まだまだ、「健常者と同等に」とはいかないことが多数あります。宿泊施設の予約もそうです。

障害がある場合の予約のコツ

宿泊施設によっては、Webにバリアフリー情報を提示していない場合があります。
旧「ハートビル法」(1994)、バリアフリー新法(2006)のもとでは、一定規模以上のホテルには、バリアフリー化が義務付けられています。1994年以後に建築・改装されたホテルは、「まあ大丈夫」ということになります。
しかし実際には、バリアフリー情報が提示されていないことがあります。理由はさまざまです。
また、実質的な宿泊拒否もあります。直接、自分が必要とする対応を記述したり電話で述べたりして予約すると、「障害者に対応できる部屋が実は予約されていた」などの口実で断られることがあります。その後で「車椅子対応の部屋である必要はなく、お部屋に入れればいいんですが」と述べることは可能ですが、それでも受け入れを渋られることがあります。他に選択肢があれば、気持ちよく泊まれるところを探すことも可能でしょう。選択肢がないので「すみませんが」とお願いし、「何があってもウチは責任取りませんから」という条件で受け入れてもらえる場合もあります。
この背景として考えられる事情の中には、人件費を削減した結果として「設備的には何とかなるけどギリギリ」というものもあります。平常時のオペレーションは辛うじて回るけれども、非常時に障害者がいると対応できないという場合もあるでしょう。私は、窓口や現場の方を困らせる意義は少ないと考えていますが、自分が泊まれないのは困ります。
ネットの宿泊施設予約サイトを通すと、事情が異なります。旧ハートビル法以後に新設あるいは改装された施設に、バリアフリー対応設備がないわけはありません。「設備があるけど物置になっていて使えない」「合理的配慮の提供が出来ない事情がある」といったことも、一応、あってはならないことになります。なぜならば、宿泊施設は予約サイトと契約する際、法令遵守を約束するからです。2014年、日本は国連障害者権利条約を締結して以後は、障害者対応に関する義務を法的に課せられていない宿泊施設でも、「ウチは合理的配慮なんてしませんから!」と堂々と言うわけにはいかなくなりました(2014年以前、直接予約すると、結構あったんですよ……)。
というわけで、予約サイトで予約してから当該施設に電話で問い合わせるとスムーズです。もし悶着が発生するようなら、予約サイトに連絡すれば済むでしょう。ただし、私自身は、その必要に迫られたことはありません。
いずれにしても、基本的なスタンスが「泊まれないと私は困るし、『正当な理由なく泊めなかった』となると、そちらも困るでしょう。なんとか調整できませんか?」だったら、紛争や対立にはなりにくいでしょう。といいますか、少なくとも商売として営業している宿泊施設では、私は予約にあたっての紛争や対立の経験はありません。

障害者が来たら困る宿泊施設でいいのか?

同じ居心地、同じサービスなら、安いほうが嬉しいのは障害者も同様です。しかしLCCと同様、安さにはワケがあります。
人件費をかけずに安さを実現している場合、ギリギリの人員で回しているわけですから、イレギュラーな事態に対応しにくくなるのは当然です。
とはいえ、障害者を含むのが普通の社会。障害者がいないことを前提にするのは、イレギュラーな社会です。障害者など配慮や人手を必要とする人もいることを前提とせずに、イレギュラーな社会を前提に公共的なビジネスを成り立たせることは、おかしいのではないでしょうか。
この観点から、あらゆる産業の再考が必要であるはずです。今、1つの特定の宿泊施設に対して、すぐに再考と対応を要求するのは、あまりにも「無理ゲー」すぎます。しかし、見直しは必要です。

健常者しかいない場合でも、緊急時や非常時には、ある程度は宿泊施設に頼りたいもの。障害者が来たらアワアワする宿泊施設には、とても頼れないでしょう。まずは、この観点からの見直しが必要と思われます。
たとえば、「障害者は泊められない」と明記することを認める代わりに、高い宿泊税を設定し、その宿泊税で障害者など配慮の必要な人に対する人員や設備や防災面の整備を行う、とか。

宿泊施設予約サイトの「差」を放置しておいていいのか?

日本の予約サイトの中には、大手でも、アクセシビリティ(日本でいう「バリアフリー化」)に関する情報を掲載していない場合があります。しかし、同じ業者の米国法人は、きっちり掲載していたりします。米国には1990年に定められた障害者法があり、障害者対応が可能かどうかに関する情報を出さないことが基本的に認められないからです。
しかし、日本の同等の大手予約サイトでも、アクセシビリティ情報を掲載している場合があります。
この差はしばしば、

「最も安価で空室を見つけやすい大手予約サイトAにアクセシビリティ情報が掲載されていないため、もう少し高価で空室情報が少ない別の大手予約サイトBで確認してから、Aで予約する」

という成り行きにつながります。
Bさんには、まことに申し訳ありません。Bさんのその「少し高価で、空室情報が少ない」ということによってアクセシビリティ情報が充実しているのかもしれないのに、Bさんを実質的に選べず(高価すぎて、あるいは空室がなく)、購買行動によってBさんの姿勢を応援できないことになりがちなのは残念です。

法や省令によって、日本全国で、同じ基準で(できれば世界に誇れる水準で)、宿泊施設に対してアクセシビリティ情報の公開を求めてほしいと願います。
そうでなくては、より誠実でやる気のある業者さんが損をすることになってしまいます。もちろん、情報アクセシビリティの不平等をなくすという意味でも重大な意味があります。

声を上げるマイノリティを叩いても、誰もトクしない

こういう問題は、気づいた人が声を上げるしかありません。
どうぞ、声を上げる方々が叩かれず、多くの方々に「大事なことを言っているかもしれない」と受け止められるようになりますように。

ノンフィクション中心のフリーランスライターです。サポートは、取材・調査費用に充てさせていただきます。