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京アニ放火事件-容疑者の精神疾患について、私が最も知りたいこと

 京都アニメーションへの放火事件から、もうすぐ2週間が経過しようとしています。数多くの報道が重ねられ、容疑者自身についても詳細な報道が行われています。
 でも、私が最も知りたい情報は、今のところ、ありません。それは「容疑者がどういう治療を受けていたのか」です。

至極ありきたりの症状ばかり

 容疑者の精神疾患に関しては、過去の近隣トラブルとともに、さまざまな報道が重ねられています。統合失調症の可能性を指摘する精神科医もいます。

 私は精神科医ではありませんが、報道される過去の言動や内容、その時の容疑者の年齢などを見る限り、ほとんどが「統合失調症のありきたりのパターン」の範囲に収まる感じはあります。

ありきたりの、傾向と対策のある症状なのに

 統合失調症であるとすれば、ほぼ「傾向と対策」が確立されています。珍しい病気ではなく、人口100人あたり1人が罹患する、極めてありふれた病気です。
 治療方法や治療薬については、数多くの取り組みや研究が重ねられてきました。治療開始が遅れると回復しにくくなる傾向はありますが、容疑者が刑務所を出所した30代後半の年齢で本格的な治療が開始されたとすれば、遅すぎて治療が難しくなっている状況ではなかったのではないかと思われます。刑務所でも更生保護施設でもアパートでも、なんとか支援を受けて暮らせていたわけですから。

 とりあえず本人は、周囲から攻撃されていると感じ、焦燥感でいっぱいで頭の中が忙しいという状態が、長年続いていたわけです。そういう状態が長年続いていれば、まず本人が苦痛でたまらなかったことでしょう。そして、その状態を改善する「傾向と対策」は、あったはずです。ありふれた、至極ありきたりの症状の数々に対しては、薬物だけでも数多くの選択肢があります。本人が落ち着ける選択肢にたどりつくまでには、若干の試行錯誤を重ねなくてはならなかったかもしれませんが。
 犯行には1ミリの共感もしませんが、苦しかったであろうことは想像できます。

治療内容の詳細が気になる

 私が最も気になるのは、容疑者が有効な治療を受けられていなかった可能性です。
 自分に適した、自分がラクになれる薬にたどりつくためには、医師や医療との信頼関係が必須です。医師は超能力者ではありません。患者に「前回処方された薬を飲んだら、こういう好ましい変化と、こういう悪い変化があった」と率直に言ってもらわない限り、好ましい変化を維持して悪い変化を抑える処方はできません。しかし医師への感情的な反発があったり、医療への不信感があったり、あるいは医療への恐怖心があったりすると、患者は医師に、処方の結果を正確に伝えることができなくなります。
 精神科医と精神医療と容疑者との関係は? どういうやりとりが行われていたのか? 薬物療法で試された薬は何だったか? その結果はどうだったか? 処方の変更はどのようになされたのか? 本人は自発的に服薬できていたのか? 服薬していなかったとしたら、理由は何だったのか? 訪問看護の主要な役割は、看護師の目の前で本人に服薬させることになっていなかったか? ぜひ、明らかにされてほしいです。将来の訴訟の場でもかまいません。

 服薬が続かない場合、原因が副作用の苦しさにある場合もあります。しかし、副作用の発見と対策についても、かなり定式化されています。もしも、医師に率直に「こんなふうにキツい」と言うことができ、医師が「我慢しなさい」と片付けるのではなく可能な対応を取るのであれば、副作用はゼロにはならないまでも減らせるでしょう。


 医師や医療を悪者にしたいわけでも、責任を問いたいわけでもありません。
 しかし、医療を必要としていたはずの人が自分自身に必要な医療を受けられていたかどうかは、どうしても気になります。
 取材を通じて知るには、非常に高いハードルがあります。プロの取材者だから情報が得られるとは限りません。個人情報の壁があり、その壁を壊すことに伴う人権面の問題もあります。「それでも報道するのか?」という葛藤は、当然のこととして発生します。報道のしかたにも、十分以上の注意が必要です。緩衝壁であることは、報道する者に求められる役割の一つです。
 いすれにしても、ニュースに接する人々の中で「それを知りたい」というニーズが高まり、その取材に取り組む方々が増えれば、状況は変わるでしょう。

 苦しい症状に長年苦しめられてきた一人の人が、苦しさの解決を見当違いの方向に向けて多数の人々を殺傷する悲しい事件を引き起こすのではなく、苦しさから解放されて落ち着いた毎日を送るために、何が必要だったのか。何が足りなくて、判で押したようなありきたりの症状が改善されなかったのか。その不足の原因は、どこにあったのか。
 そこが本質ではないでしょうか。
 本質に目を向けることなしに、再発防止はありえないと考えています。
 

ノンフィクション中心のフリーランスライターです。サポートは、取材・調査費用に充てさせていただきます。