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スタンリー・キューブリックの恐怖サイコ映画「シャイニング」の移動撮影

怖い映画が嫌いと言いながら、結局は色々見てしまう。巨匠スティーブン・キングの原作をスタンリー・キューブリックが描いたサイコホラー映画が「シャイニング」だ。

「シャイニング」って、どんな映画?

制作:1980年
分野:サイコホラー
撮影:カラー
時間:1時間59分

物語をひとことで言うと
閑散期で休業中のリゾートホテル、管理人の仕事についた男が次第に狂気に侵されていくお話。

仕事のため、男(ジャック・ニコルソン)は妻と子供の3人でリゾートホテルに向かう。宿泊客がいない冬、広大な敷地のホテルに暮らしながら管理する仕事だ。

本格的な冬の到来とともに、一家はホテルに閉じ込められたような状態になる。男が本当に目指している事と、そこでの生活との間には徐々にギャップが出来て、妻は不穏なものを感じ始める。

そして、ある日、その閉ざされたホテルの中で、あるはずがないものが子供の前に姿を現し始める。男は次第に狂気に侵されて行く。

この作品を見てみたかった動機について

怖くて見過ごしてしまった上、映画館で上映される機会がなくなっていたため、若い時には見ていなかった作品。

ステディカムという、カメラを持ったままで滑らかに移動する撮影機材を初めて本格的に使った映画で、ずっと見たくて仕方がなかった。ついに最近、やっと見た。心底怖いし本当に気味が悪いが撮影方式の効果はさすが。

この映画が出来て以降ステディカムは一般化してしまい、今となってはより多彩な撮影機材(軽量クレーンとか)もありドローンによる空撮も一般的となった。GoProだって使えるし。

恐怖が追いかけてくる効果

動きながら、動かしながら撮るというのは、役者やお話が足りない部分を補う効果が抜群と思われ乱用気味に思える。スタンリー・キューブリックが意図したものと今の使い方は本質的に違う気がする。

「シャイニング」でのステディカムは、恐怖の増幅に直結していたと思う。三脚やドリーでは出せない没入感が出ている気がする。当時、こんな撮影方式を全編に導入した凄さ。とにかく怖い、気味が悪い、横から後ろから何かが迫って来る気がする。アマプラで、タブレットで鑑賞したので耐えられたが、怖がり屋の自分としては映画館で観たら辛かったと思う。

下はワーナーブラザーズのオフィシャルトレーラーへのリンク。

状況設定も怖いが、リゾートホテルに冬の間閉じ込められ身動きができない。外部との接触がない。外からの助けがない。仕事だから逃げ出すわけにいかず同じ環境にずっといるしかない。何かあっても、そこにいる自分たちだけで対処するしかない。

この閉塞感が何といっても怖い。家族以外に人はいるのだが、結局は家族だけで何とかするしかない状況となる。そして家族も、心理的に崩壊していってしまう。昨今の状況とかぶるものがある。心理的な恐怖が一番怖い。

ジャック・ニコルソンが出てくるだけで普通ではないものを感じるし、ワーナーブラザーズ配給という組み合わせも「エクソシスト」を思い出す。オープニングの音楽は確か、ベルリオーズの幻想交響曲の一部と思うのだが、この音楽自体、かなり危ない主題だ。

映画におけるカメラの手持ち撮影

確かジャン・リュック・ゴダールの「勝手にしやがれ」が手持ち撮影だった気がする。劇場映画といえば三脚に固定したり、移動撮影ならドリーというレール上をカメラが三脚ごと動く、画像が安定する仕掛けを使うのが当然だった。大画面での上映は、わずかなブレも観客を不快にする。

ぶれた動画を大画面で見るのはつらいし、映像作家としては美的感覚が許さないはず。このブレと、エキストラ無しの野外ロケ(と思われる)で既成映画の常識を破壊したのが「勝手にしやがれ」だった。

そういえば、この映画の主演、ジャン・ポール・ベルモンドが最近亡くなった。みんな年取ってたんだなと、つくづく思う。

ステディカムについて

ステディカムというのは、カメラを手持ちで移動しながら、ぶれずに撮影を可能とする撮影補助具でスタビライザーとも言う。大画面に映しても安心の移動撮影ができる、プロ映像機材と呼ばれる特殊な装置。

映画撮影で使われる前、ひょっとしたら違う目的で開発されたのかも知れないが、そこは知らない。ともかく一般人が使うようなものではなく、かなり大きい(映画用カメラがそもそも大きい)装備品。

知らない人が見れば、軍隊装備と思うような代物。24年前のものだが、ステディカムの広告が掲載された専門誌があったのでご参考まで。

1997年に専門誌に掲載されていたステディカムの広告。現在の総代理店は「銀一株式会社」とのこと

スマホ、デジカメ用機材としても普及

最近、と言っても、もう何年にもなるが、民生用のステディカム(ステディカムは商標であるので、スタビライザーというのが正しいはず)が普及してきている。ヨドバシとかビックに行けば撮影機材コーナーに普通に置いてある。

ご近所の方が、もう何年も前だが、お子さんの運動会か何かのイベントでの活躍をデジタルカメラで動画撮影するのに使っていて、ちょっとビックリした事がある。

これだけ動画が盛んになると、綺麗な絵を、どんなシチュエーションでも撮りたいと思う気持ちは良くわかる。が、あんな妙なものを家庭用デジタルカメラにくっつけて動画を撮影していたのは目立った。

カメラの下にけん玉のようなものをぶら下げ、子供を一心不乱に追いかけている様子はスタンリー・キューブリックが乗り移ったかのようで、ちょっとひいた。さぞかし良い絵が撮れた事と思う。

キャスト、監督、スタッフ、制作会社など

キャスト
冬の管理人:ジャック・ニコルソン
その妻  :シェリー・デュヴァル
その子供 :ダニー・ロイド

監督、原作、配給
監督:スタンリー・キューブリック(「2001年宇宙の旅」の監督)
原作:スティーブン・キング(「キャリー」「グリーン・マイル」など)
配給:ワーナーブラザーズ