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63年前の映画「ベン・ハー」が描いた古代ローマの光景

ベン・ハーってどんな映画?

年代:1959年
分野:帝政ローマを背景にした史劇(原作は”イエス・キリストの物語”)
撮影:MGMカメラ65,パナビジョン、カラー(テクニカラー)
時間:3時間42分(前後編で中間に休憩が入る)

物語をひとことで言うと
迫害されたユダヤ人のベン・ハーがイエス・キリストに命を救われ、ローマ人に復讐するお話。

ユダヤ人の豪商、ジュダ・ベン・ハーが住む町へ、故郷を離れていた幼なじみのメッサラが、ローマ軍の地区司令官に昇進し帰って来た。再会を喜ぶ2人だが立場の違いから反目、ベン・ハーと家族は冤罪を着せられる。

奴隷に身分を落とされて移送される途中、ベン・ハーはキリストと出会い死から逃れる。不思議な運命でベン・ハーはローマ軍の英雄となり故郷に帰還。家族が牢獄で死亡した事をエスターから聞く。

ローマ皇帝・元老院からも認められメッサラより高位のクインタス・アリアス2世となっていたベン・ハーは、その地位を捨て、大競技場で メッサラ と対決する運命の日を迎える。

49年前の古文書と遺物を発掘

下は1973年頃だと思うが、当時購入した「ベン・ハー」(※)のパンフレット。49年前だからすっかり日焼け変色し煤けていて「発掘感」が出ている代物。

当時のパンフレット表紙

オリジナル・サウンド・トラックを収録したEP版(シングル)レコードも購入。オープニングの序曲が収録されているほか、ベン・ハーとエスターとの出会いの場で流れる愛のテーマがB面に入っている。

マイブームだったサントラ版のコレクション

最新のDVDパッケージも購入

DVDは最近購入した。というか冠婚葬祭のお返し品、カタログギフトでゲットした。カタログギフトを頂くと家族に回すのが普通。この時は、家族が悩む(2ヶ月はかかる)内に期限が迫り、「ベン・ハー」が選択肢にあって、珍しく私の手に落ちた♪。

大昔に見た時、その後、そして現在。どんな印象の変化があるのか楽しみであったがメーキングがとても面白かった。スクリーンテストの様子も収められている。

ベン・ハー、1959年版のDVDパッケージ

淀川長治は否定的だった作品

淀川長治という有名な映画評論家がいた。民放の名画劇場の解説をずっとされていて、昔の映画ファンなら誰でも知っている人。その彼だが、この映画には否定的で「あんな戦車競走のどこが良いんでしょうね?」と言った記憶がある。ラジオ番組での発言だったかもしれない。

淀川長治は映画会社の宣伝マン出身。どんな映画でも、何かを見つけてほめる傾向をもっていたはずなのだが。聞き間違えだったのだろうか?

誰が何と言おうと私は好み

多分、私は邦画・洋画問わず史劇、遙か昔の時代の再現が好きなんだと思う。映画評論家が何と言おうと惹かれる内容がある。

時代的にはエジプト時代、ローマ時代が当時はお気に入りだった。広く言えば地中海世界から中東あたりまで、古代史を中心に興味津々だった頃。この志向性のため、後年「イントレランス」の豪華上映イベント(バブル期的イベント)にも行った。

「ベン・ハー」は想像力と妄想力をかき立ててくれた作品、「ローマの休日」の監督がなんでこんなスペクタクルを撮影したのか不思議でもあった。

洗脳された数々の史劇的場面

私が惹かれたのは、イエス・キリストの誕生シーン、ローマ軍進軍の描写、キリスト布教の様子、海戦、ローマ中心部でのパレード、ゴルゴダの丘、そこへ向かうエルサレム旧市街の町並みの描写。大競技場の馬車のレースが一般的には見所だったと思う。

下は50周年記念、コレクターズパッケージのトレーラー(音楽は違う)。

ローマの地、クインタス・アリアスの屋敷で催されるパーティというか大宴会の場面があるのだが、実はここも隠れた見所。

この場面の出演者に、本物のイタリア貴族がいたという事が伝えられている。そのシーンは下記と言われているのだが、何者が登場し、画面上のどの位置にいるのかは分からず、個人的には未だに興味のある点。

歴史の映像化ということについて

ローマがユダヤの地を武力で征服し、その中で他の民族がどんな状況に置かれているのかを描写している点も興味深い。もちろん、遙か二千年以上も前の、イエス・キリスト生存当時の日常や環境を再現するのは不可能なはずだから、あくまでも想像の産物。

しかし、ハリウッドのパワーとマネーが、まるでその時代にワープしたかのようなリアリティを創出。映画が描いている事が本当にあったのではないだろうかと勘違いしてしまいそうな迫力がある。

歴史エンターテインメントと史実を混同しそうな点が、この手の映像作品の怖いところでもある。虚構の魔術だ。

設定されている時代背景

「ベン・ハー」にはローマ皇帝が登場する場面があるが、史実通りであれば、この皇帝はティベリウス、同時代のユダヤ総督はポンティオ・ピラト。ミサ曲で何百年も sub Pontio Pilato と歌われてきたピラトである。

ポンティオ・ピラトは史実通りの名前で、クインタス・アリアスの友人として登場している。この時代に有名な海戦があった記録は発見できていない。海戦はベン・ハーの人生で重要な転機となる出来事なのだが、あくまでも筋立ての道具だったと思われる。

何度見れば気が済むのか?

なんで、こんなに見るのだろうか。初めて見たのはテレビの名画劇場。二回目は京成名画座、三回目はリバイバル上映のロードショー(多分、松竹セントラル)、そして現在も手元にある2枚組セットのDVDは見放題。

年に1回か2年に1回くらい、無性に「ベン・ハー」が見たくなる。この作品を何度も見るのは、琵琶法師が語る平家物語を聞く人と同じ気持ちかもしれない。もしくは、手塚治の「火の鳥」に惹かれる気持ちに近いかもしれない。

国や民族、部族、支族の栄枯盛衰の断面、壮大な歴史的イメージに惹かれるだけではなく、未来に通じそうなヒントが見えるのも惹かれる点。ローマのような大国がいかに栄え、いかに滅びたのかは特に興味のある点だ。

メーキング映像が楽しい

私が持っているDVDには先ほど書いた通り撮影の裏側が記録されている。CGが無かった時代で、一部の背景はマットペイントされた事が分かった。

大競技場そのものを完全に再現した訳ではないにせよ、巨大なセットをイタリアのチネチッタ撮影所近くに実際に建設したのは確か。こんなに手がかかった大がかりな作品はもう二度と作れないのではないかと思う。

膨大な資金を投入し回収できた事が、映画が巨大産業であったことを証明していると思う。1つの作品に命をかけた時代、プロジェクトが動き出せば命をかけるしかなかった時代。これはフィルム作品の必然でもある。命をかけたプロデューサー、サム・ジンバリストは完成前に亡くなっている。

この1959年の作品だけでなく「ベン・ハー」は過去に何度かリメークされてきたし、元々は舞台で上演されていた。「ベン・ハー」リメーク物で、予算的にトップ的な地位にあったのがこの作品。

その時見たものが自分にとって良い作品であればよしとしたい。私にとっては、これが「ベン・ハー」の原点なので、この後のリメーク品、それ以前の作品は見ないようにしている。

キャスト、監督、スタッフ、制作会社など

出演:チャールトン・ヘストン(ジュダ・ベン・ハー)(※)
   スティーブン・ボイド (メッサラ)(※)
   ハイヤ・ハラヒート  (エスター)(※)
   キャシー・オドネル  (ティルザ)(※)
   ジャック・ホーキンス (クインタス・アリアス)(※)

監督、スタッフ
監督:ウイリアム・ワイラー(「ローマの休日」の)
音楽:ミクロス・ローザ

制作会社、配給会社
制作:MGM

※IMDbで詳しく知る Find out more on IMDb.

参考:
Ben Hurの原作者、ルー・ウォーレス将軍の業績を研究・公開する博物館が米国、インディアナ州にある。そこで、1959年版「Ben Hur」について2018年に行われた講義の様子は下記から参照できる。

https://www.ben-hur.com/the-1959-ben-hur-a-new-tradition-begins/