生きる理由なんてない。死ねないのだから。

銀河の死なない子供たちへ」施川ユウキ、読了。
2017年初版で今頃見つけてしまった。俺のアンテナは錆びている。
SF漫画。かわいい絵柄でセンシティブな内容をぶっこんでくる。ギャップが面白い。

以下、ネタバレ有り。

 人類がいなくなった星で暮らす幼い姉と弟。彼らは永遠の命を持っている。不老不死。老いず死なず。
 幼い姉弟が母親と慕う女性もいて、彼女も不老不死。鍾乳石を首に刺したまま初登場した。「痛いのだけは飽きることができない」

 母親と慕ってはいるが、姉弟の世話をしている描写は少ない。なぜなら姉弟は成長しないし、死なないから。

 成長しないし、死なない人はどう生きるのか。死のない生に意味はあるのか。
 姉弟は子供だからまだ苦悩しないのかもしれない。
 姉の『π』(パイ)は幼い体と素直な感性で大自然で自由に遊ぶ。時にクジラに食べられ、ハイエナに食べられながら。

 通常、幼い子供の方が時間の流れをゆっくり感じると言われるが彼らの時間はものすごく早く進むようだ。
 眺める星空は軌跡を描いて円になる。寝転がったまま季節が変わり、木の芽は気がつけば大樹になる。

 弟の『マッキ』は基本、本を読み知識を蓄えていく。
 母親の唯一のいいつけ『ペット禁止』を破り、様々な動物を飼育していたが皆、死んでいく。

「みんなどこへ行ったんだろう?」

「どうして僕らはそこに行けないんだろう?」

 ある日、二人は空から落ちてきた宇宙飛行士に遭遇する。そしてその宇宙飛行士は妊婦で、子供を出産してすぐに死んでしまう。
 二人は母親に内緒で人間の子供を育てることにする。死なない二人が死ぬ人間を育てる。
 これまでマッキは動物を育てたことはあっても人間を育ててはいなかった。マッキは死ぬ側の意見を『言葉』で聞きたいと思っていた。言葉は伝える道具だ。
 成長しない二人は子孫を作ることも出来ない。命を繋げない。だが言葉で伝えることは出来る。経験を、思いを繋げることは出来るのだ。
 母親はπに伝える

「はじめに言葉ありき」

「宇宙が終わる最後の瞬間、そこにあるのも言葉だけなの」

πがラップが好きで、ことあるごとに口ずさんでいるのも言葉が好きだからだ。

生まれた赤ん坊は『ミラ』と名付けられた。

 母親はミラを殺そうとした。いずれ死ぬ人間はπとマッキに悲しみをもたらすだけだと思ったからだ。しかし、3人の生活をおままごとと位置づけ、しばらく様子をみる事にした。
 死なない家族はたまに食事を共にする。死なないので栄養をとること自体が目的ではないようだ。母親はただ「家族には必要」だと言う。これは同じ他者の死を摂取することで、罪悪感を共有し、家族になるということかもしれない。
 しかし、死ぬ家族がとる食事は明確に生きるために必要な行為だ。
 母親がπとマッキに言う「家族には必要」とπがミラに言う「家族には必要」は意味合いが変わっていると思う。

 ミラは幼いままの姉弟に育てられ、成長する。そしていつか自分だけが死ぬことを理解する。病気によって死が近づき、抵抗しながらも死を受け入れる。
 その時、姉弟の母親が現れ、実は姉弟も元は人間だったことを明かす、人類が他の星に脱出する際に取り残された幼い姉弟を、不老不死にして、自分の家族にした、と。ミラにも不老不死になれと要求するがミラは拒否し、死を選ぶ。

「そっか」「あなたは」「人間が…いなくなった…この星に」「ひとり…取り残されるのが…」

「怖かったんだ…」

 死ぬことへの恐怖ではなく、生きることへの恐怖。
 書き下ろしの最終話で母親から二人へも元々普通の人間だったことが明かされる。元の人間に戻るためには母親から遠く離れなければならない、違う星に行くほどに。
 πはミラと同じ人間になりたいと宇宙を目指す。
 出発する前夜、マッキはずっと聞きたかった、死ぬことが出来る側の気持ちをπに尋ねる。

「今どんな気持ち?」

「すっごくドキドキする!」

πは違う星を目指すが、マッキは母親のために残ることを選択する。

「そーいえばママが言ってた」「生き物は死んだら星になるって。だから…」

「きっと星空は死に埋め尽くされてるんだよ」

「π」「宇宙は広いけど」「大丈夫だよ」「πはいつだって」

「星を見ていたんだから」

星空=死を見ていた姉は旅立ち、本(言葉)=繋がることを見ていた弟は残った。
 どちらが正しいとかもなくどちらも生き様だろう。生と死は表裏一体というが死のない生を幼い姉弟、母親は生きていたと思う。
 ミラが死なない二人と共に生活する中で

「同じ季節の中で私だけが変わっていく」「私だけが何もかも変わる」

「私だけが」

「いずれこの世界から消え去る」

「だから」

「あらゆる瞬間が」

「私には愛おしいのだ」

と独白しているが、πとマッキも愛おしく感じていたはずだと思う。
ただπとマッキは他の生物と違うことに違和感を感じていた。同じになることを求めたπと違うことを受け入れたマッキ。
生きる理由はそれぞれ。死ぬ理由もそれぞれだ。

「パイへ 未来は君とともにある マッキ」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?