若者がひたむきに頑張る姿は無条件で涙

録画したTV番組の周回遅れ感想。

FNSドキュメンタリー大賞「8人のサッカー部」

『長崎県宇久島の宇久高校サッカー部の話。
 宇久高校サッカー部の創部は27年前。かつては部員数は30人以上いたこともあり、県大会でベスト8に進んだ実績もある。
 しかし、高齢化、人口減少により、部員は8人になってしまった。
 部員たちはほとんど幼なじみ。小学校低学年から、みんなでサッカーをしている』

 俺の経験上、近所の幼なじみってなぜか中学から疎遠になってしまう。違う地域から通ってくる人数も増えて、関係が薄くなってしまうからだろうか。俺が薄情だからか。
 思春期真っ只中の18歳くらいまで同じメンツで遊んでいるってどういう感覚になるんだろうか。

『部員たちは試合があるたびフェリーで本土に向かう。移動時間は4時間以上。
 2018年の県高総体。緒戦でいきなりシード校とぶつかって0-22と惨敗してしまう』

 驚いたのは0-22と大惨敗しているのに誰もへらへらしているように見えなかったこと。そもそも人数が少ないのだから、どこか負けて当然のような気持ちになってしまってもしょうがないと思う。勝ち負けよりも楽しもうみたいな気持ちでやってるんだと思っていた。
「少人数だから負けるというようなことは絶対に言わないので誰も」

『3年生が1人卒業して8人になったサッカー部。
 その年の新入生で男子はたった一人。新キャプテンは取材陣に「強引に入部させる」と話していたが、唯一ある別の部活の陸上部に入ってしまった。
 結局8人で県大会に臨むことになった』

 みんな幼なじみなので、先輩後輩の上下関係もキツくないのだろう。幼なじみがいくらイキッたところで幼なじみには違いない。

『かつては10,000人以上いた島民は現在約2,000人程度。2人に1人が高齢者。島の産業である農業や漁業も後継者不足に陥っている。町には仕事が少ないという。
 高校総体が近づくなか、バレー部の練習に参加する副キャプテン。どこの部活も人数が少ない。協力し合わなければやっていけない。
 専門の指導者もいないが、サッカー部OBの社会人が練習につきあってくれることもある』

 人が少ないから大変なことも多いが、人が少ないからお互いが顔見知りになり、助け合いが盛んになるという皮肉な一面があるのだなと思った。
 ちょうどいい人口密度ってものがあるんじゃないかと。

『そして迎えた、2019年県高総体、島民からの見送りを受けてフェリーに乗り込み一回戦を戦う。
 しかし、圧倒的な数的不利はいかんともできず、前半0-6で折り返す。
 そしてチームの一人が左足を痛めるアクシデントも襲う。
危機的な状況で始まった後半だが、怪我をした選手のパスが起点となり、待望の1点を獲得する。
 試合終了のホイッスルが響いた時、スコアボードは1-10を示していた』

 一矢報いるとは正にこの事かと思った。
 おそらく今まで無得点で二桁失点が当たり前のような試合ばかりだった思う。
 1点が重い。
 1点とれば勝てるわけではないが1点だけでも獲りたい。それだけ気持ちが入っている得点だった。
 引退する3年生は「あの1点は人生の宝物」と語った。

『3年生2人が引退して6人になってしまったサッカー部。公式戦は7人いないければ出られない。
 そんな時に陸上部に入ったあの1年生が「協力したい」と、高校総体が終わるまでという条件付きではあるものの、サッカー部への加入を希望した。これで公式戦に出れる。
 その後、練習試合を行ったサッカー部。相手より4人少ない状況の中、0-6で敗れはしたものの、部員たちは口々に「楽しかった」と話した』

 陸上部に入った1年生もかつてはサッカーをしており、1つ年齢が上の先輩たちに協力したいと申し出た。ここでも人数が少ないなりの苦労とメリット。
 あと、顧問の先生が他校に協力を仰ぎ「11人の連合チームとして試合するのはどうか」という提案をした時に、「11人でやってみたい」という選手と「やっぱり宇久島の代表としてこの7人で試合がしたい」という選手がいた。
 顧問の先生的にはいろんな経験をしてほしいとの思いからの提案だったようだけど、宇久島でサッカー部をやる以上、少人数なのは承知の上だと思う。
 宇久島でサッカーを続けていくということは、勝てる可能性が初めから低い上に、いろんな人に手伝ってもらって成り立っているということ。
 ある部員が「サッカーをやっていること自体が感謝の気持ちを伝えることになる」と言っていた。
 人数が少ないからこそ感じる感覚なのかもしれない。

『連合チームではなく宇久高の部員のみで挑もうと決まった高校総体。
 部員の6人が3年生。その3年生が引退後、サッカー部は廃部になる。
 その最後の高校総体を迎える年。2020年。コロナの影響で高校総体は史上初の中止になる』

 …なんてこったと思ったが。これぞドキュメンタリーだとも思った。当人たちは想像もしていない結末。もし映画なら金返せと文句が出る。それでもこれが現実。無慈悲。理不尽。
 高校を卒業して、本土に渡った先輩。7人目の救世主となった1年生。新キャプテンと足をけがした兄と得点を決めた弟の双子。それぞれの家族。島の未来。
 出来すぎた映画のような話だと思っていたのに最後の大会の中止の衝撃。現実は小説より奇なりとはまさにこのこと。
 それでも映画と違うのは部員たちはサッカー部最後の世代としてこれからも人生は続く。宇久島の人口問題も続く。

 よく田舎の方が子供を育てる環境にいいと聞くが、この番組を見て本当にそうだな思った。負けたら悔しい。困っている人がいれば助ける。世話になった人がいれば感謝を伝える。
 少し意外だったのは親たちが「自由にしていい。島に戻ってこなくてもいい」と言っていたこと。本心ではないのかもしれないが、子育てにはいいかもしれないが生きていくには不便だということか。

 リモートワークで出来る職種をもっともっと増やして田舎に”適度に”人を送り込むべきかもしれんなぁ。と。

 珍しく社会派。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?