グリム童話ATM #毎週ショートショートnote

　多羅葉銀行本店営業部の本沢直樹は、課長の犬田に会議室に呼び出された。
「例のATM取り引き明細に童話がプリントされる企画だが…例えばヘンゼルとグレーテル、これだと母親が貧困のため、子供に毒入りパンを持たせ森に捨てる、という話だよな。内容がグロテスクじゃないか？」
本沢は落ち着いた口調で反論した。
「全て原典に忠実です。グリム童話ATMになんら問題はありません」

その時ドアが開き、専務の大矢田が会議室へと入ってきた。
「本沢君。グリム童話ATMだが…」
「その事でしたらただ今私から注意を…」犬田が口を挟むと、大矢田はそれを遮った。
「お客様から数多くのお褒めの言葉がSNSに寄せられている。本沢君、今後もよろしく頼む」
「…専務、私も良い企画だと思っていました。本沢君、次は「アリとキリギリス」なんかどうかね…」
犬田の手のひら返しはいつもの事、本沢はそう心の中で呟きながら不敵な笑みを浮かべて言った。「課長、それはイソップですよ」

（410文字）

---

たらはかに様の企画に参加させていただきます。