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非情怪談 #毎週ショートショートnote

 台風による停電が長引いていた。買い置きの食料で夕食を取ろうと、家族4人暗いリビングに集まった。蒸し暑い部屋の空気の中、父親である隆はある事を思い出し、非常持ち出し袋の中を探った。
「あったあった。これこれ」隆の手には一冊のブックレットが握られていた。表紙には『非情怪談』とある。
「こういう夜はろうそくの明かりで怪談話をするといいんだ。ゾッとして暑さもしのげるぞ」
妻も子供も最初は尻込みしたが他にする事もなく、父の朗読に耳を傾けることにした。
「番町皿屋敷」「四谷怪談」などは子供たちにとって新鮮で、父の熱演にキャーキャーと怖がった。やがてそれにも疲れうとうとし始めた。
「非情怪談、良かったわ…」妻が隆にしなだれかかった。
「まだ電気は来そうにないな。それじゃ今度はこれを読んでみよう。ここからは大人の時間だ」そう言って隆は別のブックレットを取り出した。妻がロウソクの明かりに照らすと、表紙にはこう書かれていた。『非常猥談』。

(410文字)
たらはかに様の企画に参加させていただきます。
脳みそも溶けそうな暑さの中、がんばりました。みなさんの作品を楽しみにしております。

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