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半分ろうそく #毎週ショートショートnote

 母の一周忌を翌日に控え、男は実家の扉を開けた。母が一人で暮らしていた家は、男にとってよそよそしさを感じさせる場所となっていた。
 湿気臭い仏間に入ると、男は仏壇の引き出しをあけた。中には線香や香炉、陶製の消壺がある。消壺の中を見ると幾つもの使用済みろうそくが入っていた。ちょうど半分くらいまで溶けている。
 その「半分ろうそく」の束を見ていたら、男は生前母が話していた事を思い出した。「うちのお寺さんはお経が短い。読経が終わってろうそくを消すと半分は残っていて、勿体無い気がする」そう言っては壺の中にしまい込んでいたのだった。
 夕暮れ、男は薄暗い仏間で夕食を取ることにした。ふと思いついて、先程見つけた「半分ろうそく」を取り出し火をつける。
 ゆらめく炎を眺めていると、母の思い出が否応なく男の心を占めていった。その時ろうそくの火がパチっとはじけ、何かが男の頬に当たった。鋭い痛みと共に、男は母の叱声を聴いたような気がした。

(410字)


たらはかに様の企画に参加させていただきます。
お題から、落語の「死神」を連想しました。しかし「死神」の域には到底及ぶべくもなく、ショートショートというよりは、掌編小説もどきの出来上がりとなりましたね。皆様の作品を楽しみにしております。

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