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痛みや不妊の原因となるチョコレート嚢胞と癒着

女性にとって、生殖に関わる重要な臓器が「卵巣」です。
この卵巣に悪影響をもたらす病気として「チョコレート嚢胞(のうほう)」があります。

卵巣だけでなく、周りの臓器にも癒着という形で悪影響をもたらし、つらい痛みや不妊の原因となる病気です。
今回は、チョコレート嚢胞と癒着による影響、その治療方法について解説します。

チョコレート嚢胞とは

チョコレート嚢胞とは、どのような病気か詳しく見てみましょう。

チョコレート嚢胞は子宮内膜症の一種

チョコレート嚢胞は、卵巣に「子宮内膜症」が発生し、卵巣内に血液が溜まった状態をいいます。
この子宮内膜症とは、本来、子宮の内側にあるべき「子宮内膜」が、子宮の内側以外の場所にできてしまう病気です。
子宮内膜症は卵巣のほか、骨盤腹膜、卵管、膀胱、尿管、直腸などにも見られることがあります。
思春期~閉経期の女性の5~10%が子宮内膜症であるといわれており、子宮内膜症の約55%にチョコレート嚢胞が合併するとされています。

なぜ子宮の内側以外に子宮内膜が発生するのか、原因は詳しくはわかっておらず、子宮内膜症やチョコレート嚢胞の有効な予防法もないのが現状です。

「チョコレート」の正体は溜まった古い血液

子宮内膜は、月経周期に合わせて増殖と剥離(はがれること)を繰り返します。増殖した子宮内膜は受精卵を包み込むベッドの役割を担いますが、妊娠していない場合には子宮内膜は剥離し、子宮から腟を通って排出されます。
これが月経です。

子宮の内側ではないところに子宮内膜が発生した場合も同様に、月経周期に合わせて出血が起こりますが、血液を体外に排出できないため、血液は溜まった状態になります。
卵巣に子宮内膜が発生した場合も、月経のたびに血液が卵巣内に溜まり、古くなった血液がチョコレート状になります。
そのため、卵巣にできた内膜症は「チョコレート嚢胞」と呼ばれるます。

チョコレート嚢胞の進行が癒着の原因に

チョコレート嚢胞は、月経がある限り進行し続けます。
そのため、治療が遅れるほど、子宮、卵巣、卵管、腸管などとの間で癒着がひどくなることになります。
本来、骨盤内の臓器と臓器に間にはスペースがあるのですが、そのスペースがすべて埋まるほど、骨盤内の臓器同士が癒着することもあります。

チョコレート嚢胞と癒着による影響

チョコレート嚢胞は、痛みや不妊など、さまざまな症状の原因になるほか、嚢胞が破裂したりがん化したりすることもあります。詳しく見てみましょう。

骨盤周りの痛み

チョコレート嚢胞が進行すると、月経のたびに血液が卵巣に溜まり、下腹部の痛みや腰痛の原因となります。
また、癒着によって、周りの臓器や組織同士が引っ張られたり炎症が起きたりするため、下腹痛、腰痛、排便痛、性交痛などの症状に悩まされる場合も少なくありません。

不妊

チョコレート嚢胞で問題になるのが、不妊です。
癒着が卵管(受精卵を子宮に送る管状の器官)の周囲に進行すると、排卵機能を障害し、妊娠に影響を与えると考えられています。
不妊の相談に病院を訪れた際に、チョコレート嚢胞や子宮内膜症がわかる場合も少なくありません。

嚢胞の破裂・がん化

チョコレート嚢胞が進行すると10cmを超える場合もあり、嚢胞が破裂することがあります。
また、嚢胞が感染を起こすケースもあるほか、がん化することが稀にあります。特に、40歳以上で嚢胞が大きい場合や急速に大きくなる場合ではがん化の頻度が増すため、適切な治療を受けることが大切です。

治療法

チョコレート嚢胞の治療法としては、薬物療法と手術療法の大きく分けて2つがあります。

薬物療法

チョコレート嚢胞では、痛みの症状が表れやすいため、鎮痛剤で痛みのコントロールを行います。
チョコレート嚢胞の状態や痛みの強さによっては、低用量ピルなどのホルモン剤によって女性ホルモンの分泌を抑えて症状を緩和する治療が行われます。

手術療法

チョコレート嚢胞の手術は、腹腔鏡手術と開腹手術の2種類があり、嚢胞の大きさや状態、癒着の範囲などによって適切な方法が選択されます。

手術範囲は、癒着の範囲や状態、妊娠の希望の有無などによって、嚢胞部分のみを切除する方法や嚢胞を含む卵巣・子宮・卵管を切除する方法などがあります。

嚢胞部分のみを切除する場合には、できるだけ卵巣を傷つけずに行うことで将来の妊娠への影響を最小限にすることが可能です。
再発のリスクは高くなりますが、低用量ピルの内服を継続することで、再発を劇的に減らす効果があることがわかっています。

また、手術療法では術後の癒着が問題となるため、臓器や組織の損傷や出血を最小限にすること、感染予防、適切な癒着防止剤を使用することが重要です。
フィルム状やスプレー状の癒着防止剤を使用するほか、血液と反応するハイドロゲルを用いた吸収性局所止血材によって、組織の損傷を最小限にしつつ速やかに止血を行う方法などがあります。

チョコレート嚢胞の早期発見・早期治療が大切

チョコレート嚢胞は進行すると、癒着が広範囲におよび、痛みや不妊などの原因となります。
薬物療法や手術療法で症状を緩和できますが、再発や手術による癒着などの問題もあり、長期間の経過観察が必要な病気です。
今後の技術の進歩によって、再発や術後の癒着の頻度低下が期待されます。
そして、癒着が広がる前に発見・治療することが大切です。特に症状がなくても1年に1度は婦人科検診を受けることをおすすめします。

参考元:
日本産科婦人科学会 子宮内膜症/子宮腺筋症の診断と治療
日本内分泌学会 子宮内膜症
腹腔鏡下卵巣チョコレート嚢胞摘出術後の再発リスク因子についての検討
日本産科婦人科学会 子宮内膜症
名古屋大学医学部 子宮内膜症
日本婦人科腫瘍学会 子宮内膜症(卵巣がんとの関係について)
産婦人科診療ガイドライン一婦人科外来編2020
日本産婦人科医会 子宮内膜症・子宮腺筋症 手術療法
生体内架橋ゲルを応用した腹腔内癒着防止バリア