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ワクチンの未来を変える「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」

新型コロナの流行で今までにないスピードで進んだワクチン開発。
しかし、効果の持続性、副反応、投与量の最適化などの課題も多く残されています。
今回は、ワクチンの基本と、ワクチンの課題解決に欠かせない「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」について解説します。

ワクチンの3つの役割と種類

ワクチンは感染症を予防するだけではありません。ワクチンの役割と種類について、くわしく見てみましょう。

ワクチンの基本的な役割は3つ

ワクチンには下記の3つの役割があります。

  1. 感染症の予防
    ワクチンは、ウイルスや細菌、または細菌が作り出す毒素を弱めたりなくしたりしたものです。このワクチンを接種することで、感染症に対抗する免疫を体内に作ることができ、ワクチンの元となった感染症にかかりにくくなります。

  2. 感染症の症状軽減
    ワクチンを接種することで、感染症を攻撃する免疫を獲得できるため、もし感染症にかかったとしても症状が軽くて済みます。

  3. 流行の予防
    ワクチンを接種した人が増えれば、感染症にかかる人が減り、症状も軽く済むため、社会全体で感染症の流行を抑え込むことができます。

ワクチンの種類

ワクチンにはいくつかの種類があり、感染症によってワクチンの種類も異なります。
代表的なのが、「生ワクチン」と「不活化ワクチン」です。
子どもの定期予防接種はこのどちらかのワクチンが用いられているのですが、生ワクチンと不活化ワクチンの開発には、数年以上の歳月と多大なコストがかかります。

また、新型コロナウイルス感染症が流行した際、その急速な拡大に対抗するため、新たにmRNAワクチン(メッセンジャーRNAワクチン)が導入されました。
mRNAワクチンは、ほかの2つのワクチンとは違い、ウイルスの遺伝情報が分かればすぐに製造が可能です。

各ワクチンの特徴や、既にヒトに対して接種されている感染症は、下表のとおりです。

これらのワクチンの発展により、命を落としたり、後遺症が残ったりする恐ろしい病気を予防できるようになったのです。

ワクチンの効果を最大限に引き出すための課題


2019年より新型コロナウイルス感染症の流行が始まり、全世界に大きな打撃を与えました。
ワクチンの開発・普及が急がれた結果、2021年には国内の約8割の人がmRNAワクチンを2回接種できました。
しかし、新型コロナワクチンは免疫の獲得に複数回の接種が必要であること、副作用が比較的強いことなど、課題も多いのが現状です。
また、新型コロナワクチン以外のワクチンにおいても、接種時の痛みや接種回数の多さが負担となります。

これらの課題を解決するためにドラッグデリバリーシステム(DDS)が注目されています。

ワクチンの課題を解決したドラッグデリバリーシステム


ドラッグデリバリーシステムの概要と効果について見てみましょう。

ドラッグデリバリーシステムとは?

ドラッグデリバリーシステムとは、医薬品の効果をよりよく発揮できるよう、薬物の投与方法や経路を最適化するための技術です。
薬の飲む回数を減らしたり、不必要な場所へ薬効が届くのを防いだりと、最近の薬にはドラッグデリバリーシステム技術が多く使われています。

ドラッグデリバリーシステムのワクチンへの効果

ワクチンは「適切な抗原を、適切な場所に、適切な量を届ける」ことが重要となりますが、ドラッグデリバリーシステムが、ワクチンの問題を解決する大きな鍵となっています。

例えば、新型コロナワクチンに用いられているmRNAは、体内ですぐに分解されてしまう物質です。
そのままでは、ワクチンとしての効果を発揮できませんが、脂質ナノ粒子という脂肪のカプセルにmRNAを組み込んで安定させることで、細胞内へ安定的にmRNAを送ることができ、ワクチンとしての効果を発揮できるようになっています。

mRNAワクチンのほか、DNAワクチンやウイルスベクターワクチンなど、新たなワクチンの種類が登場していますが、これらのワクチンにおいてもドラッグデリバリーシステムが利用されています。

ドラッグデリバリーシステムがもたらす未来

ドラッグデリバリーシステムは、ワクチンの効果を高めるだけではありません。
システムの発展によって、ワクチンにどのような未来が待っているか見てみましょう。

副反応が軽減する

ワクチン接種後にみられる、好ましくない症状が「副反応」です。
新型コロナワクチンでは50%以上の割合で接種部位の痛み、疲労、頭痛などの副反応がみられています。
さらに、高熱や吐き気、嘔吐などがみられる場合もあり、ごくまれに心筋炎や心膜炎がおこる例も報告されています。
これらの副反応は接種者にとって避けたい事象です。
ドラッグデリバリーシステムの発展により、これらの副反応が出にくく、頻度が減ることが期待されます。

ワクチン接種回数が減る

ワクチンの多くは2回以上の接種が必要です。
ワクチン接種は、痛みや副反応の問題があるほか、受診する時間の確保や予約なども接種者の負担となります。
ドラッグデリバリーシステムの発展によって、免疫獲得に必要なワクチンの接種回数を減らせる可能性が見出されており、今後の研究の発展が待たれます。

輸送・保管時のコールドチェーンが不要になる

新型コロナワクチンは、マイナス80℃あるいはマイナス20℃での保管が必要になり、保管可能な冷凍庫の確保や、保管方法の誤りや冷凍庫の停止によるワクチンの廃棄が問題となりました。
この問題も、今後研究が進むことで冷凍保存が不要となる可能性があり、ワクチンの配送・普及がしやすくなるでしょう。

ワクチンの経鼻投与が可能になる

ワクチンの多くは注射による投与となるため、痛みや恐怖心などの問題があります。しかし、ワクチンを鼻から投与できるようになれば、その問題は解決するでしょう。
経鼻投与型のワクチンは、インフルエンザウイルスに対して研究が進められているほか、さらに多くのワクチンでも実現する可能性があります。

進化したワクチンが人々の健康を守る

ドラッグデリバリーシステムは、薬の効果だけでなく、ワクチンにおいても効果を最大限に引き出し、副反応を最小限に抑えられる可能性のある革新的な技術です。
ドラッグデリバリーシステム技術の進化により、ワクチン接種の効果や方法が大きく変わり、未来の医療において重要な役割を果たすことが期待されます。

感染症の予防がさらに効果的になることで、私たちの健康を守る手段が大きく広がるでしょう。

参考元:
KNOW*VPD!ワクチンについて
KNOW*VPD!ワクチンの種類
特許庁 DDS技術について
DDS 技術に立脚したワクチン開発の現状 Drug Delivery System 37-5,402-411
日本感染症学会 ワクチン委員会・COVID-19 ワクチン・タスクフォース COVID-19 ワクチンに関する提言(第7版)
厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A
厚生労働省 全国の新規陽性者数等及びワクチン接種率