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『YOASOBI小説集』読んだら楽曲のすごさが分かった(ネタバレなし)

音楽ユニットYOASOBI。最近めちゃくちゃ流行ってますよね。

私は時折Spotifyの「日本トップ50」プレイリストを流し聴きしてて、YOASOBIともそこで出会いました。そこで聴いてるぐらいなので、熱心なファンというほどでもないのですが。
でも新曲出すたびに否応なしにランクインしてきますよね。すごいです、YOASOBIの勢い。

代表曲「夜に駆ける」は、あの「香水」と並んで2020年に一番ヒットした曲の一つといってもいいんじゃないでしょうか。
いろんな人がカバーしてるし。香取慎吾版は絶品ですよね。

YOASOBIの楽曲の特徴は「投稿された小説をもとに楽曲が制作されている」ということ。

で、この度、その小説をまとめた書籍が出たので買って読んだら、楽曲の元ネタに衝撃を受けたとともに、YOASOBIの楽曲化の塩梅が絶妙で凄いことに気づいたよ、という話です。

疾走感と切なさとピアノの組み合わせはsupercell「君の知らない物語」の世界をずっと引き継いでますね。


私は原作読むきっかけが欲しかった

そもそも、YOASOBI楽曲の原作となっている小説は、普通にホームページで公開(←クリックで飛べるよ)されていて、読むことが出来るらしいんですけど、これまでは何となく読まなかった。曲は普通に夢中になって聴いてたけど。ほんとに特に理由はなく何となく読まなかった。

で、たまたまニュースで小説集として出版されるということで買ってみて、それをきっかけに読んでみることにしました。こういう何げないタイミング大事。あと、やっぱりなんか紙で読みたいという古臭い気持ちもあったし。

音声モノが好きな身としては、「夜に駆ける」のボーカルikuraさんによる朗読映像が特典でついてくるのも聞きたかった。

読んでみた

読みました。当然、その小説が元になって作られたYOASOBIの楽曲を聴きながら。(以下、小説のネタバレなしの超ざっくりとした感想)

まず最初に「夜に駆ける」の原作が収録されてるんだけど。あのね、短い!笑。でも短いなりにそれなりに仕掛けとかもある。ケータイ小説み。

そして2つ目は「あの夢をなぞって」の原作。これはけっこうちゃんとした小説。辻村深月大好き人間としてはめちゃくちゃ好きなタイプの小説。「ぼくのメジャースプーン」み。

3つ目は「たぶん」の原作。短いけど余白があって、曲がああいうビートになるのも妙に納得。この人は4編の中でいちばん文章が上手い。リズム感がある。

4作目は「未発表曲」とのことで、これがどういう曲になるか楽しみです。アポカリプス文学。

感想:YOASOBIの編集力

で、感想なんですけど、私は読みながら感動していました。
何にって、YOASOBIの楽曲化する際の編集力の絶妙さに。

もう「アハ体験」の連続です。「えっ、あの歌詞って、こうだと思ってたけど、元はこういう意味だったの?」という。

しょっぱなから「夜に駆ける」ってそういう意味だったの?!みたいな。

そのアハ体験を一通り終えた後に思うことは、YOASOBIすげえ、Ayaseすげえでした。

元々YOASOBIの楽曲に対しては、「印象的なフレーズが多いけど、そこで描かれている出来事は抽象的で、解釈の余地があって面白いな」という印象を抱いていたんですけど、それはYOASOBIが原作の小説からそういう部分を抜き出していたからだったんですね。

恋愛にも、友情にも、人生にも、どれにでも当てはまって聴こえる、この懐の深さはそうやって生まれていたんだ、と感動したのです。

よく考えたら普通「小説を原作にした曲」を作ったなら、それは「ストーリー」を伝えたり、印象的な場面を描写したりするような曲になりそうですよね。BUMP OF CHICKEN「K」とか、くるり「ブレーメン」みたいな。

でもYOASOBI曲って原作小説のストーリーラインは全くなぞらずに、「エッセンス」の部分、たとえば「ストーリーの特定のシーン」や「登場人物の心情が動いた瞬間」なんかを上手に抜き取って歌詞にしているんですね。

たとえば、全体の話の中から「思わず目をそらした」というシーン/フレーズだけを抜き出してたりする。あえて原作での文脈から切り離してそこだけを強調することで、曲の力も合わさって、解釈に色々な余地・余白のある、グッとリスナーを捉える力のあるフレーズになってる。
これ、逆にちゃんと「●●が、××で、▲▲だったから、思わず目をそらした」と全部を小説の筋に則って説明しようとしちゃうと、ポップソングとしてのパワーというか、普遍性が消えちゃう。
きっと、「音楽としての表現」じゃなくて、「説明」になっちゃう。

ほかにも、「たぶん」の原作小説、短い中で「たぶん」という言葉が効果的に、そして意外にしつこく使われていることを見抜いて、それを楽曲にフィーチャーするだけでなく、楽曲のめっちゃおいしいところで「たぶん」というフレーズを使う。すごいとしか。

つまり、「原作」の中から「印象的なシーン」や「心情が動く瞬間」をうまく切り取った結果、「固有名詞」や「特徴的すぎる・文脈に頼った単語」やや「ストーリーライン」が排除され、一方で純粋に表現として力のある「情景」「フレーズ」「心の動き」が残る。
それらがメロディに乗せられ、ikuraさんのボーカルで歌われ、ピアノが特徴的な編曲で彩られることで、色々なシーンに当てはめる・寄り添うことが可能な「普遍的なポップソング」として生まれ変わっている。この編集力がすげえ。

「小説の主題歌」でもなく!「小説のストーリーを楽曲で表現」でもなく!

いわば「小説のエモいところだけ、抽出しました」なんですね、YOASOBIの楽曲の正体は。

(あと話ちょっと逸れるけど、どの曲もメロディラインめっちゃむずくない?みんなこんな難しいのカラオケで歌いこなしてるの?だとしたら日本の未来は明るいやでこれホンマに)

小説を読んで「元ネタはこれだったのか!」と衝撃を受けたので、たとえば今後「夜に駆ける」を聴くたびにこの小説の内容は間違いなく思い出すことになるのですが、一方で小説を読む前に「夜に駆ける」を聴いて感じていた自分なりの「夜に駆ける」の解釈も、自分にとっては「本当」であり続けると思う。むしろ元ネタを提示されたことで、別の角度から光が当たって元の形が分かるようになったというか、それまでの自分なりのYOASOBI楽曲の解釈がどういうものだったのか、輪郭がハッキリしてくる感覚もあって面白かった。

結論

なので「元ネタの表現のエモいとこ取り」×「様々な解釈の余地を残す編集」がYOASOBI楽曲の強みだと小説を読んで気づきました!以上!

YOASOBIの楽曲、1~2曲好きなのあるよ~、ぐらいでも読んでみて損はないと思う。

まあ、褒めてばっかりもアレなので言っておくと、全体的に小説としては稚拙な部分が目立つようなものではあること。ここにある程度目をつぶればかなり面白いコンテンツだと思う。

あと「カメラを止めるな!」みたいな、同じ場面を違う視点から2回描いて謎解きするタイプの話が多いな?そういう別視点からの謎解きみたいなのじゃない良さもあるよと言いたい。

「ハルジオン」と「群青」の原作小説も読んでみようかな。


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