はれのひ(作、小杉匠)

見た目よりゆるやかに流れる星が天空の彼方を駆けて、もしも消え果ててしまったら誰かの覚悟さえも消し去ってしまう。
 
安寧と秩序を求めてさまよう星の数々。ひとつずつ数えてみよう。

らら、ららら
 
永遠の背中に乗っかる蝶。春の息吹はまだまだなれど、私の心はなぜか揚々。麗しい日々を思い出したなら、忌まわしい過去を遠ざけてしまおう。いち早く陽だまりだけを集めていたら、あなたの灯が消えてしまった。振り返ればもう届かない虚ろな思い出だけが改めて木陰に映る。
 
輝いていた私。煌めいていたあなた。誰も彼も信じられない歪んだ俗世の中で二人はいつしか出会った。この世の中で私達をもてあそぶ荒波と、未知なる別の人生をもとめる歩み。私の視界からあなたが消えていなくてよかった。いつの日もあなたがともにいてくれてよかった。夢の切れ端を歩いたら風がそよぐ。あなたが風ならば私は木の葉。泳いで泳いで泳がされて明日がちっとも見えなくっても、晴天の訪れだけは信じていられる自分自身でいたかった。消えない憧れと幸せを願う気持ちだけが私たちの人生の充実。
 
蝶々は存在を消す。普遍と偏在。季節という制約は私たちに美の概念をもたらす。あゝ、蝶々のいない冬。私は白雪を身にまとう蝶々の存在を静かに期待しているのだろうか。秩序という秩序。壊されるために存在する常識、通念というもの。社会自然の秩序は乱さないのだよ。かつて天上の存在に宣誓した私。そうあれは何十年も前のこと。いまやその約束は誰かが反故にしてしまった。だがこの冬に蝶々はいない。地球はまだ死んでいない。
 
今日寒い戸外から日射が届く。はれのひ。いつの季節にも長雨だけは勘弁だ。子供たちのはしゃぎ声が両の耳にかすかに聞こえる。昨日という一日が美しかったから、今日もその美しさを保ちたい。その純粋自然な心があれば私たちを取り巻く自然はいつまでも私たちの味方でいてくれるはずだ。風が笑う。あなたが笑う。誰も彼も自然を愛するならば、はれのひがこの地上から消え去らないように空気を澄み渡らせていよう。
 
らら、ららら
 
あなたが鳴らす喉歌がほら、今この瞬間世界に喜びを届ける。
 
ららら、ららら

幸せを運ぶ。
風が笑う。私も笑う。

今日ははれのひ。

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