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耳がない  その2

おやっ、あれはなんだ?

ネズミくんが、ワニくんのかおにある二つの穴にきがつきました。

「こんなところに穴がある。そうだ、これをひっぱって、耳のかわりにすればいいんだ」 

ネズミくんは、穴のはしっこをもって、ぐーんとひっぱりました。

そのいたいこと、いたいこと。

「いたたたたっ」

ワニくんは、大きなこえでさけびました。

「もうすこしだから、ワニくん、がまんがまん」

ようやく手をはなしたネズミくんは、上から下から、右から左からと、ワニくんのかおをじっくりとみてみました。

「うーん、まだ耳のかたちにならない。もっとひっぱらないとだめだな」

こんどは、ワニくんの皮がとれてしまうくらい力いっぱいひっぱりました。

「いたたっ。あのねー、ネズミくん、あのねー。いたたたたっ」

ワニくんがさけんでいるのに、やっぱりネズミくんは、きいていません。

「よしよし、ようやく耳らしくなってきた。ここが耳のさきっぽで、ここが耳の穴で・・、うーん、こうやってみていると、なんだかほんものの耳みたいだ。きこえるかどうか、ちょっとためしてみようかな」

ネズミくんは、ひっぱった穴にかおをちかづけ、すぅーといきをすってから

「おーい、ワニくん、きこえるかーい?」

とおおきなこえでさけびました。

そのこえは、ずっとむこうのはらっぱにとどくほど大きかったので、ワニくんはびっくりして、口をぱくぱくさせました。

こんなワニくんをみて、ネズミくんは、またはやとちりをしました。

「ぼくのこえは、きこえなかったみたいだぞ。よし、こんどはもっともっと大きなこえで、ためしてみようっと」

ネズミくんは、またまた大きくいきをすってから

「おーい、ワニくん、きこえるかーい?ぼくがすきなもの、おしえてあげるねー。ぼくはー、ながいはながすてきなゾウくんがすきー。ふさふさたてがみがすてきなライオンくんがすきー。それに大きな口とりっぱな歯がステキなワニくんがだーいすき」

と、それこそ山のむこうまできこえるほど大きなこえでさけんだのです。

そしてさいごに、ちいさなちいさなきえそうなこえでいいました。

「でも、ぼくにはステキなところがひとつもない。だから、ぼくなんかだいっきらい」

すると、いまのいままで口をぱくぱく、目をしろくろさせていたワニくんが

「ほそくてながいしっぽと、くろくてまるい目がステキなネズミくんが、ぼくはだーすき」

と、いったのです。

あんなに小さなこえでいったのに、ワニくんはきこえたの?

こんどは、ネズミくんが、びっくり。

「ワニくん、きみ、ぼくのこえがきこえるの?」

「うん、あのね、ネズミくんがひっぱった穴って、ほんとうにぼくの耳なんだよ」

「なんだ、だったらさいしょに、そういってよ。ぼく、しんぱいしちゃった」

ネズミくんは、うしろむきになって、おこっています。

そんなネズミくんに、ワニくんは、そーっといいました。

「せっかちで、あわてんぼうで、おっちょこちょいのネズミくん。ぼくは、そんなネズミくんも、だーすきだよ」

「ほんとに?」

ネズミくんが、うしろをむいたままききました。

「うん、ほんとだよ。だからネズミくん、こっちをむいてよ」

ふりむいたネズミくんは、すこし赤くなりながら

「ぼくにも、ステキなところが、いっぱいあったんだ」

と、うれしそうにいったのでした。

 

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