おなかの中のお月様
ワニくんとネズミくんは、はらっぱのまんなかで、まんまるな月をみていました。
「ねえワニくん、ぼくはお月さまが、だーいすきなんだ」
月をみながら、ネズミくんがいいました。すると、ワニくんがこういったのです。
「あのね、ネズミくん。ぼくのおなかのなかにも、お月さまがいるんだよ」
これには、ネズミくんもびっくり。
「そんなのウソだ。だってお月さまは、ほら、ちゃんとお空にいるじゃないか」
すると、ワニくんは、月にむかってりょうてをひろげて、歌をうたいはじめました。
「♪おかあさんお月さまは空の上
大きな大きなお月さま
こどものお月さまはあそんでる
いろんなところであそんでる
ほら、水たまりでも、バケツのなかでも、そしてぼくのおなかでも
ちっちゃな、ちっちゃなお月さま
ぼくのおなかで、あそんでる♪」
「あのねワニくん、お月さまが、水にうつることぐらいぼくだってしってるさ。でも、おなかのなかに、はいるわけないよ」
ネズミくんは、プンプンとおこっています。
「でも、ぼくのおなかには、ほんとうにお月さまがはいっているんだ」
「じゃあ、どうしてお月さまが、ワニくんのおなかにはいったのか、いってごらんよ」
「ぼくね、夜って、ものすごく大きくてまっくろだから、こわくてねむれなかったんだ。そうしたら、母さんが、夜の王さまとともだちになれば、こわくないよ、っておしえてくれたの」
「夜の王さまって、だれ?」
ネズミくんがきくと、ワニくんが空をゆびさしていいました。
「お月さまが、夜の王さまなんだって」
たしかにピカピカとかがやく月は、とてもりっぱで夜空の王さまのようです。でも、どうやったらあんなにたかいところでひかっている月と、ともだちになれるのでしょう?
「ぼくも、ともだちになりたい。ねえワニくん、どうすればいいの?」
月が大すきなネズミくんは、おこっていたことなどすっかりわすれて、ワニくんにききました。するとワニくんは、リュックサックのなかからすいとうをだして、コップにトクトクトクと水をいれました。
「ネズミくん、このなかをみてごらん」
ネズミくんがのぞいてみると、コップのなかに、まんまるな月がうつっていました。
「この水をのむと、ちっちゃなお月さまがおなかにはいるだろ?そうしたら、お月さまとともだちになれるんだって。ほらネズミくんも、のんでごらん」
ワニくんにいわれ、ネズミくんは、コップの水を、ごくごくっとのみました。
「ネズミくんのおなかにも、お月さまのこどもがはいったね。もう、ネズミくんとお月さまは、ともだちだよ」
ワニくんが、ネズミくんのおなかをなでました。
すると、ネズミくんのおなかが、ぽかぽかとあたたかくなってきたのです。
「ワニくん。ぼくのおなか、お月さまがひかっているみたいにあたたかいよ」
「ぼく、いまあたらしい歌ができたから、ねえネズミくんきいてくれる?
♪空のお月さまは、ホットケーキ
ほかほかあったか ホットケーキ
ぱくぱくむしゃむしゃたべちゃうと
おなかのなかまで ぽっかぽか♪」
ワニくんが、月の歌をうたうと、ネズミくんが、ぴょんととびあがりました。
「そうだ、ワニくん、もういちどコップに水をいれてよ」
「えっ、どうして?」
「いいからいいから、はやくいれてよ」
ワニくんが水をいれると、ネズミくんは、すぐにコップのなかをみました。
「やっぱりあった。ほらワニくんもみてごらん。お月さまのとなりにお星さまもいるよ」
「ほんとだ、お星さまもうつってる。じゃあ、これをのめば、お星さまとも、ともだちになれるかな?」
「うん、なれるよ。これで、ぼくたち、夜ぜーんぶとともだちなれるんだ」
ネズミくんとワニくんは、コップの水をはんぶんづつのみました。
「♪空のお星さまは、こんぺいとう
ぴかぴかひかった こんぺいとう
ぱくぱくむしゃむしゃたべちゃうと
おなかのなかまでぴっかぴか♪」
ワニくんは、またあたらしい歌をつくったみたいです。
ネズミくんも、ワニくんといっしょに、ともだちになった大きな月と星の歌をなんどもうたっています。
空の上では、まんまるな月が、このふたりの歌をじっときいていたんですよ。