恥ずかしいのかなんなのかシリーズ。キョンみく以外のCPごった煮

 ツイッターの方で、「恥ずかしいのかなんなのか」という出だしで始まる掌編をやってみたのですね。モーメントでまとめるぜ→モーメント廃止だぜ、というコンボをくらって止まったのですけど、カップリングはごった煮でした。ひたすら思いつく限りやったのです。お気持ち長文だけ出すのもなんなので、こちらで公開で。


長門×キョン

 恥ずかしいのかなんなのか。
 彼はまるでこちらを見ようとしない。向かいに座るわたしのことを、まるで見ようとしない。胸の内に生じた感情について説明するならば、これはそう、おもしろくない、と言うべきだろう。彼が、わたしのことを、いや、わたしが差し出しているスプーンを、そっぽを向いて無視しているのは、本当に、おもしろくない。
「……あーんして」
 わたしは、先ほど言った言葉を繰り返した。今日は、彼と二人でパフェを食べている。カップル用のパフェなるものがあると朝比奈みくるに聞いたわたしは、彼と共にこの新しくできた喫茶店にやってきている。
「あーん」
 三度目。しかしやはり、彼はこちらを見もしない。彼の心拍数が先ほどから上昇し、見た目にも顔を上気させているのがわかる。ようするに、照れているらしい。
 涼宮ハルヒに借りた漫画の中にあったことを実践してみたのだが、なぜ彼はそんなに照れているのだろうか。恋人に食べさせてもらうことのどこがそんなに恥ずかしいのだろうか。わたしだったら、とても嬉しいのに。
 なんで? とおもしろくない、と。二つの感情を抱えながら、わたしは無言で圧をかけていく。今日は楽しい、デートの日。


ハルヒ×古泉

 恥ずかしいのかなんなのか。
 普段あれだけにこやかに人当たりのいい顔をして、誰にでも爽やかな顔を向けている古泉くんが、こんな、誰も見たことがないだろう顔をするなんて。
 なんのことはない、今日は妙に言い寄ってくる男が多かったものだから、虫除けにと古泉くんに抱き着いて彼女のフリをしただけだと言うのに。
 ぎょっとして、狼狽して、顔を真っ赤にして、笑顔を消して、目を泳がせて。自分でもかっこ悪いと思ったのか、すぐになんにもなかったかのようにすまし顔をしてみせたけれど、顔と耳が真っ赤なのはどうしようもないらしい。
 女の子の扱いには慣れてそうなものだけど、案外、初心なのかしらね。くすり、と笑みをもらすと、古泉くんはそれに気づいたのか、ぴくり、と不機嫌そうに眉を動かした。何か言いたげではあるけれど、彼は何も言わなかった。キョンには言わないでくれってとこかしらね。そうあたりをつけて、あたしはくすくすと笑いながら、
「さ、いくわよ、一樹くん」
 わざとらしく名前を呼んでみせる。すると彼は眉間にしわを寄せてうめくように言った。
「やめてくださいよ」
 いいじゃないの、と笑って。あたしは、なおも恥ずかしそうにする古泉くんの姿を見つめるのだった。


キョン×ハルヒ

 恥ずかしいのかなんなのか。
「おいこら、こっち向け、ハルヒ」
 そっぽを向いたハルヒを半眼で睨んでうめくように言うのだが、ハルヒは何も言わないし、こちらを見もしない。
 恥ずかしがっているのは、わかる。口を尖らせ、不機嫌そうにそっぽを向いているが、頬が赤い。とんでもなく。時刻はすでに夕方だが、夕日のせいではない。
 真っ赤になったハルヒの横顔をじっと見つめていると、やがてハルヒはぽつりとつぶやいた。
「……事故よ事故」
「あん?」
「事故だっての! 流されただけなんだから。別に、あんたとしたかったわけじゃないんだから」
 こちらを見ないままそうまくしたてるハルヒ。俺はさらに目を細めて、ハルヒを見つめた。この期に及んで、こいつはまったく。
「俺は事故とかなんて思わないぞ。したかったからしたんだ。文句あっか」
「…………何よそれ」
「うるせえ。しちまった以上、もうヤケだ。俺はしたかったからした! お前は嫌だったのか? 答えろ!」
 叫ぶ。ここが部室で、もしかしたら近くに誰か居るかもしれなかったが、構わなかった。誰に知られても構わない。なぜなら俺は。
「……嫌じゃ、なかったわよ」
 俺は、ハルヒのことが大好きだからだ。
 いつになく弱気な表情を見せたハルヒを、俺は強く抱きしめた。


キョン×長門

 どんな時にも無口無表情。付き合うようになってから多少はわかりやすく――朝比奈さんに言わせると、どのあたりが? とのことだが――笑うようになったものの、それでもやはり基本的に表情を崩すことのないのが長門有希という俺の彼女である。
 ふと思いついて、たまには後ろから抱きしめてみるかと思い、今、実行している。ソファに腰掛けている相変わらずの読書三昧の長門を、後ろから抱きしめている。
 声を上げるかとも思ったが、やはりというべきか、声は出さず、また、身じろぎ一つしない。宇宙人パワーで気づいてたんだろうなあ、と思うと、なかなかこいつを驚かせるのは難しい。あまりに無反応なので離れようとすると、そこで長門が振り向いてきた。
「やめるの?」
「あん?」
「もう少し抱きしめていて欲しい。あなたに抱きしめられていると……ドキドキして、心地いい」
 俺の恋人は、そう言って、ほんのちょっぴりとだけ、頬を染めた。
 ああ、まいったね。
 恥ずかしいのか、なんなのか。
 俺のこのくすぐったい感じのこれは、いったい、なんなんだろうね?


古泉×ハルヒ

 恥ずかしいのかなんなのか。
 彼女が照れているときというのは、実にわかりやすい。顔を真っ赤にして、口をきゅっと結んで、眉根を寄せて。一見不機嫌そうに見えるが、実はそうではない。いや、そうではないというのは言い過ぎか。実際不機嫌な時もある。しかし大体の場合は、単純に照れているだけだ。そして今は、照れている。
 彼女と一緒に、ずんずんと道を歩く。ただそれだけのことである。普通じゃないとしたらそう、手を繋いでいる。手を繋いで歩いている。主導権を握っているのは、彼女。彼女に引っ張られるように、僕は歩いている。
 僕は彼女の横顔が好きだった。ここではないどこかを、未来を見据えて、ずんずんと歩くその素敵な横顔が好きだった。では、今は? 僕と手を繋いでいることに照れながらも、それでもずんずんと進んでいく彼女の横顔。その眼差しが見つめる未来に、僕も混ぜてもらえているようで、僕はなによりも誇らしくて、嬉しい。
 恥ずかしがっている彼女の横顔も、それを誤魔化そうとしている横顔も、僕にとっては何よりも大切で、そして、愛おしい。
 僕は、彼女の横顔が好きだ。涼宮ハルヒの横顔が好きだ。彼女の隣という特等席で、いつまでも、彼女と共に、歩いていきたい。


キョン×長門

 恥ずかしいのかなんなのか。
 いや、そんなことを言って誤魔化してどうする。実際、恥ずかしいのだ。
「……がんばれる?」
 そんなことを言って小首をかしげてくる眼前の少女。宇宙の深淵を思わせるその黒い瞳には、今は俺の顔が映っている。顔を真っ赤にして、たじろぐ俺の顔が。
「……長門」
 絞り出すようにして名前を呼ぶと、長門は、そこでまた、不思議そうに首をかしげた。相変わらずの、無表情のままで。無言のまま、見つめあう。長門は、俺が何故こんなになっているかを理解できていないようだった。課題に四苦八苦している俺に突然近づいてきて、何も言わずに顔を近づけてくるもんだから、俺はてっきりキスをされるのか思って身構えたのだが。長門のやつ、キスではなくて、俺の耳に向かって、「がんばれ、がんばれ」なんて、ささやいてくるだけだった。抑揚のない声だったが、それでも、耳をくすぐるその声色と、息遣いに、俺は心も体もぞわぞわとして、心臓はバクバク。何かが身体を駆け巡って、俺の顔は一瞬で真っ赤になるのだった。
「……がんばれるわけないだろ……」
 たまらなくなって、俺は長門を抱き寄せた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?