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大切な写真の話

昨年の秋、Instagramで投稿した写真に予想以上の反応だった。その写真について撮った側の目線で書き残したい。(文中、敬称略)

//instagram.com/p/B356i4FAsQS/embed/


被写体はFC東京の石川直宏と橋本拳人のゴール後のワンシーン。投稿から半年以上も経つが、いまだに反応をいただける写真となった私にとっても大事な2枚。


狙って撮影していたのか?

撮影している中で、多くの瞬間をファインダー越しに見ているわけですが、撮影しているときに気づけなかったことをセレクト中に気づくことは多い。今回のこの写真も、撮影していたときにはゴールした後のガッツポーズを一連の流れで撮っていたのが正直なところ。
スポーツ撮影をしている中で、事前に頭の中で描いているイメージ通りに物事が起きることはほとんどない。もちろん、こんな展開でこんなパスからゴールがうまれるかな?みたいな想定をしておいて撮影場所を選ぶのですが、そんな風に思い通りになった写真が面白い写真かどうかも別問題だったりする。そこが写真の面白さだと思うし、難しさなんだと思っている。

気づいた瞬間

帰宅後、過去に撮影した写真の中から石川直宏の写真を探したのは、その写真がなんとなく今回撮影した橋本拳人選手に似ている気がしたからだった。
2011年10月19日、ニッパツ三ツ沢で行われたJ2リーグ戦。
石川直宏が後半ロスタイム、90+5分にゴールを決めてゴール裏に向かって走り出した瞬間の写真だった。
当時チケットを買って、会社を早退しスタジアムに向かい、バックスタンドの最前列で撮影していた私へのご褒美のように目の前を石川直宏が駆け抜け、過ぎ去った後に天に向けて吠えたのだった。
彼は娘を授かり、喜びのゆりかごダンスはゴール裏、そして東京サポーターが陣取ったバックスタンドまで伝播し、試合終了を告げるホイッスルの後もそれは鳴り止まなかった。
そんな思い出深い試合の写真だったからこそ、頭の中にイメージが残っていたのだろう。
探し出した写真は、背中に輝く「18」と天に向けて咆哮をあげる姿も含め、似ているというレベル以上の写真だった。
こんなにシンクロしている写真がいままであっただろうか。そんな風に思いながら撮影日を確認した時、身震いした。思わず声を上げた。
「同じ日じゃ~~~ん」

Instagramへの投稿

普段、SNSで写真をポストするとき、直近の写真を選ぶことはほとんどありません。特に仕事として受けている撮影は、クライアントを通して世の中へ広げてもらうことが最優先される。
だからと言ってはなんですが、鮮度の低い写真が多いアカウントになっている。
でも、この時はこの奇跡のような写真を広めることで、多くの人に伝わることがあるんじゃないか?と行動に移した。
アップロード後、私のTwitterアカウントでもシェアすると、仲良くさせていただいている方々がさらにシェアをしてくれるというサイクルに入る。そして投稿から数時間後、石川直宏自らリポスト&ツイートする形で
一気にバズることとなった。
多くの人に見てもらいたいという気持ちで投稿したものの、止まらない通知に焦りにも似た感覚を感じたのも事実。
その後、FC東京の取材で出向いたスタジアムで被写体となってくれたお二方とも直接お話しし、今回の写真を印刷したパネルをお渡しすることで、自分の中で一つの区切りがついた。

橋本拳人の移籍

投稿時に込めていたFC東京の優勝を願った思いは、残念ながら最終節の横浜で涙をのむ形になった。
2020年こそはという思いを持って、ACLプレーオフからシーズンインしたFC東京は昨年の戦いをベースに新たな色を持たせようとする采配で、ボランチに入った橋本拳人への期待は高まっていた。
Jリーグも開幕し、第1節でもそのポテンシャルを遺憾なく発揮しており、シーズンへの期待度が高まったが、新型コロナウイルスの猛威により、Jリーグは中断となる。
6/9に再開が発表されるまでの3カ月もの間で取り巻く環境は変化し、橋本拳人のもとには海外クラブからのオファーが届いた。そして7/9にロシアのFCロストフへの移籍が発表された。この状況下での海外移籍は、その決断が容易でなかっただろうし、その後出てくるコメントなどから様々な葛藤があったことと思う。そんな中、石川直宏が自身のSNSに投稿した思いが、私の胸にすっと落ちた。

https://www.instagram.com/p/CCaNqyrjppT/

この時に投稿された写真が、昨シーズンお渡しした写真だった。宝物と言ってもらえたことは素直に嬉しかったし、撮り続けていたことの意義とかもこの言葉で昇華されるように思う。
そして、橋本拳人のFC東京ラストゲームとなった7/18 浦和レッズ戦。このタイミングでクラブから、この2枚の写真をオフィシャルYoutubeチャンネルで使用したいと連絡を頂き、再びサポーターの前に出ることとなった。
写真を撮り始めた頃の自分に自慢したい仕事ができたと思った。


写真のチカラ

たった1枚の写真だけど、撮り手にとっては大切な1枚。
日々消費される多くの写真。だからこそ大切にしてもらえていることを聞くとすごく嬉しいし、さらにその写真が人々のチカラになっていると思うと、自分がやっていることが間違っていないと思える。
これからも写真を撮り続けること、自分が何を大切にしていくべきなのか、それを再認識させてくれたこの2枚の写真には感謝しかない。



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