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花がすぐ枯れる14

思いつくままに書く読み物
第十四話「予約の日を間違えたことある?」



妻と距離をとって、10日が過ぎた。
部屋は綺麗なままだったし、
妻からの連絡はなかった。
ただ、帰宅すると台所に野菜が
置いてあったりして
妻がうちに帰って来てるのは分かった。
妻の作る野菜で弁当を作って昼に食べる。
それだけは変わらなかった。
会わないのに、
俺の体は妻の作る野菜で作られていく。
それだけでも繋がってるなら、
まだ、別れていないって信じられる。
「小野、今日打ち合わせ行けるか?
2時から。」
「吹奏楽ですよね、大丈夫ですよ。」
「任せて良いか?
他の打ち合わせが入ってさ」
「あ、大丈夫です」
吹奏楽の打ち合わせは、決まって新聞社だった。事前に学校に取材の進捗を教えてほしいとか、会場でもVTR流したいとか、そんな話だったら電話でも良いが。
わざわざ会うということは、
何か大幅に変更があるんだろう。
「小野さん、お待たせしました。」
「鈴木さん、
この前はありがとうございました。」
「…楽しかった。驚きました」
「記事もしっかり書いてくれましたね。
合わせてお礼を言います」
「いえ、どういたしまして。
では、仕事の話を…」
仕事の打ち合わせは30分程度で終わった。
そこまでの変更もなくて、電話でも良い内容だった。
「ところで、仲直りできましたか?」
「…え?」
「奥様ですよ」
「あ、まあ」
「帰ってきて…ないですよね?」
鈴木さんは、仕事の打ち合わせより楽しそうに話し始めた。
「寂しそう、小野さん」
そう見えるなら仕方ないけど
余計なお世話だ。
「もっと、寂しくなれば、
もっと、魅力的なんだけどな。」
わざと、聞こえるか聞こえないかくらいの声で言うところが怖い。
「奥様と仲直りできなくても、
元気出してください。」
あーあ、担当、外れたいな…。
逆の立場だったら、裁判だろうな。
「鈴木さん、今日くらいの内容でしたら、
電話とか、メールとかで全然大丈夫ですよ。
鈴木さんもお忙しいでしょう?」
気を使って言ってみた。
「検討します。では、また。」
ぜひ、ご検討ください。

大事な広報媒体でもあるので、
安易に嫌な態度もできない。

これから、ずっとこうなのかな。


今日はもう疲れた。今日は、歯医者だし帰ろう。
「あれ、小野くん帰り?
定時だ、珍しいね。」
「保井さん、お疲れ様です」
保井さんはアナウンサーだが、
今は制作部の部長で、俺がDをしている番組のプロデューサーだ。
「どうした?」
「あ、今日、歯医者予約してて」
「ああ、そう。たまにはね。早く帰った方が良いよ。あなた残業すごいから。」
働き方改革で、月45時間以上は残業しない方針だ。とはいえ、オンエアの責任者をやっていたらそれに至ることはある。
「歯医者に感謝。お疲れ様ー。」
「お疲れ様です」
今、韻踏んでたよな。ま、いいや。

歯医者について、診察券をじっくり見た。
今日だと思っていた予約は、
一昨日だった。
「何やってんだ」

誰もいない家に帰ってこんな長い時間
一人なんて耐えられない。
アマプラもYouTubeも見たくない。
とりあえず、受付で次の予約をした。

…つづく…

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