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きっとただ向かい合ってお蕎麦を食べたかった人

普段あまり行かない街でお昼どきを迎え、
お蕎麦を食べたいなと思いGoogleマップで付近を検索したところ、
レビューに「立ち食い蕎麦の高級版!」と書かれたお店を見つけた。

立ち食い蕎麦の高級版?

高級なお蕎麦を、立って食べるのか?
大きな宝石の上に立って、安いお蕎麦を食べるのか?

気になったので行くことにした。

店に入って、なるほど。
シックな空間に、立ち食いをできる席もあれば、
座ってゆったり食べられる席もあり、
食券機でメニューを見ると、
牡蠣がのったお蕎麦や、豪華な天ぷら蕎麦などがある。

たしかに立ち食い蕎麦の高級版だ!


初めて来たお店だし、せっかくなので贅沢しようと、
牡蠣が乗ったお蕎麦と、海苔天の食券を買い、
テンションが上がる。

立ち食いでもよかったけど、
店内が空いていて席が選び放題だったので、
イスのあるカウンターに座った。

食券の番号が呼ばれるのを楽しみに待つ。


すると、
自分が着席したあとからどんどんお客さんが入ってきて、
すぐにほぼ満席になった。

たまにあるけどこれ、なんなんだろう。
すごい空いてたのに、自分が入った瞬間にお店が混み始めるやつ。
絶対に違うけど、自分の入店がきっかけなんじゃないかとか思っちゃうよな。
アイス屋の前でアイス食べてて、その後にお客さんがどんどん来ると、
私がアイス食べてるの見てみんなも食べたくなっちゃったのかな?
と思ってちょっと嬉しくなる時みたいな。
多分違うけど。いや、アイス屋のそれは割と可能性あるか。

というようなことを考えていると、自分の食券番号が呼ばれた。


お蕎麦には、具がたくさんのっていて、天ぷらも大きく、
「わ〜♪  胃が喜ぶぞ」と思いながら食べ始めたのだが、

右隣に座っているご高齢の夫婦が、
お蕎麦を待ちながら、
なにやら険悪なムードを醸し出していることに気がついた。

旦那さんが、「食べ終わったなら早くどいてほしいよな。」
と、隣に座っている奥さんに言っている。

スッと、つい周りを見ると、
私の左隣にある四人席に、一人で座っている女性がいる。
空になっているビールのグラスと、食器を前に、スマホをいじっている。

どうやらその一人客に対して、
旦那さんは愚痴をこぼしているらしい。


確かに、見え方としては、よくない。
混んでいる店内で、食べ終わっているにも関わらず、
一人でテーブル席を使っているから。


「よく一人で四人席座れるよな」右隣で言う旦那さん。


ただ、この一人客は多分、まだ店内が空いてる時に店に入って、
せっかくだしとテーブル席を選んで、
お昼からビールを一杯、ゆっくり飲みたかったんだ。
その時間の大切さ、よく分かる。
お昼時から飲める状況でのシチュエーションはとても大切。
私も独り身で酒が好きだから、そう思う。

ただ、旦那さんはその光景を見て、
文句を言い続けている。
「混んできたんだから、どけばいいのに、なぁ」

この旦那さんの気持ちもよく分かる。

私は店員さんや他のお客さんにそういうことを思われたくないので、
一人で入ったお店では、空いていてもカウンター席に座る。
「他の人になんか思われてるかも」と気にするのがストレスだから。
たしかに私自身、一人で来てカウンターに案内されたお客さんが、
「テーブル空いてないの?」と店員さんに言っているのを見るとイラっとする。


まぁ、どっちの気持ちも分かるし、
どっちも悪くはないなぁ〜と思いながら、
私は気が付く。

お蕎麦の味がしない!


私を挟んで、
「一人客が四人席でゆっくりするな」と文句を言う人と、
「空いてる頃に店に入ってせっかくだから四人席に座った人」
という争いが、静かに勃発していることが気になりすぎて、

そしてその争いに気がついて状況を俯瞰して見ているのが自分だけで、

美味しいはずのお蕎麦の味が全然しない。


腹立つ……!!


文句を言っている夫婦でも、
四人席に座っている一人客でもなく、
それを気にしてお蕎麦を味わえていない自分に腹が立つ。

頼む、一人客が帰って夫婦が四人席に移動するか、
夫婦がこのまま横並びでお蕎麦を味わってくれ。

まだお蕎麦は、夫婦のもとへ来ていない。
きっと食べ始めれば、一人客への怒りもおさまってくるだろう。
ここのお蕎麦は美味しいから。

私は味わえてないから分からないけど、ね……!!!!


「なんだよ。まだゆっくりしてるよ」
文句が止まらない旦那さん。
まだゆっくりしてる一人客。


旦那さんはきっと、
奥さんと向かい合ってお蕎麦が食べたかっただけなんだ。
それも大切な気持ちだ。誰かとご飯を食べる時間って大切だ。
でもたまには、向かい合わずとも、横並びでもまぁ、
お蕎麦の味は変わらないし、いいじゃない。

一人客は、別に自由だけど、確かに私だったら席を移動するか帰るよ。
険悪な空気に気が付かずゆっくりしてるけどさ。


ね、私なんてさ、あなた方のおかげで、
味のしないお蕎麦食べてるんだから、……ね!!!


しかし、状況はさらに悪化した。

旦那さんが、
「俺、試しにあいつの目の前に座ろうかな」と言う。
奥さんは「やめなよ…」と言っている。

私は正直、
立ち食い蕎麦屋でそんなマウント取らないで…
と旦那さんに対して願った。
なんか、立ち食い蕎麦屋って、誰かと来ても、
「あ〜テーブル席空いてないけどまぁカウンターでいいよね」
っていう感じになるものじゃないの? 人それぞれだけど。

ただ、私はハッとした。
ここはただの立ち食い蕎麦屋ではない。
立ち食い蕎麦屋の…高級版だ!

立ち食い蕎麦屋の高級版では、
どうしても向かい合って食べたいという想いも芽生えるものなのだ!


あぁ、お蕎麦の味がしない。
けどお腹が空いてるから食べ進める。
なんだこれ。牡蠣のってんのに。
おい。牡蠣って命のかたまりなんだぞ。
全力で味わいたいよ。
こんなことなら、この牡蠣、海でそのまま生き続けた方がよかっただろ。
なぁ。味わってもらえないんだから。

そんな、牡蠣に申し訳なさを感じる私の様子など、彼らの眼中にはない。
おい、牡蠣に申し訳なさ感じるシチュエーションってあんまりないぞ。
なんで「もしこの牡蠣が生きてたとしたら、今頃、海で幸せに…」とか考えないといけないんだよ。


「全然どかねぇな。目の前座ってやろうよ、もう。別にあいつのものじゃないんだから。あの席」

やばいやばい。
争いが表面化する。
見たくない。

ハラハラする私をよそに、
空の食器を前に、スマホを見ている一人客。
そっちもそっちで、なんでゆっくりするんだ。
立ち食い蕎麦屋だぞ。
食後に「フゥ…すぐ出るのもなんだし、ちょっと休んでいこう」ってあんまりならないんじゃないのか、立ち食い蕎麦屋って。
なんなら、次すぐ予定あるけど、サッとご飯を食べたいときとかに来るものじゃないの?
電車待つ間とか。

ただ、私はまたもやハッとした。
ここはただの立ち食い蕎麦屋ではない。
立ち食い蕎麦屋の……高級版だ!!!

立ち食い蕎麦屋の高級版では、
食べ終わったあとにゆっくりしたいという気持ちも芽生えるものなのだ!!



私の両隣で嫌な争いが、徐々に、静かに、しかし確実に巨大化している。
立ち食い蕎麦屋の高級版だから、こんなことが起こってしまったんだ。
頼む、このまま、表面化しないでくれ。
早く終わってくれ。
私がお蕎麦を食べ終わる前に終わってくれ。

私は、お蕎麦を少しでも美味しく食べたいだけなんだ。
かつて海にいた牡蠣がここに来た意味があったと思えるぐらい、ちゃんと味わいたいんだ。


と、そのときである。
一人客が立ち上がり、トイレに行った。

するとそれを見逃さなかった旦那さんが、
「空いたよ。座ろうよ」と言った。

空いてはないよ……!!
という私の心の声そのままに、奥さんが
「空いてないよ。荷物あるよ」と言った。

しかしである。

いよいよ食券の番号が呼ばれ、
自分のお蕎麦を受け取った旦那さん。

なんとそのまま、テーブル席に座った。
そして、一人客の荷物と食べ終わった食器が置いてある向かい側で、
お蕎麦を食べ始めたのだ。

あぁ、最悪だ。
そのうち戻ってくるであろう一人客の顔を見たいのだろう。
そして、気まずくさせたいのだろう。
あぁ、できれば長いこと戻ってこないでくれ。私まで気まずい。すごく気まずい。
なんでこんな気持ちにならなくちゃいけない。

そして奥さんはというと、
お蕎麦を受け取って、
そんな旦那さんにリアクションもせず、
一人、私の横に座った。


え?


状況としては、
他の一人客が使用中の四人席に座って、一人でお蕎麦を食べる旦那さん。
私の横で、カウンターに座り、一人でお蕎麦を食べる奥さん。


意味分かんないよ!!!!!!

旦那さんは、奥さんと向かい合ってお蕎麦食べたいから、
一人客にムカついてたんじゃないの!?
バラバラで食べちゃってんじゃん!!!
えっ!? 誰が今幸せなの!?

えっ!!!!!
こんなに誰も幸せじゃないことってあるの!??!??!?


さらにさらに、
私の右隣、もともと旦那さんが座っていた席に、
全くその状況を知らない別のお客さんが座った。


んもうっ!!!!!!!!!!!


私はいよいよ、お蕎麦の味を感じられないまま、食べ終えてしまった。

脳では、「あっ天ぷらサクサク」「なにこの野菜、うま〜」
「もっと食べたいな〜」
などとちゃんと思っているのだが、
それが「言葉」として脳にあるだけで、
感情として働いていない。

もう、バグりそうだった。



これを読んでいる人は、
一人客がトイレから戻ってきた時のリアクション、
その後の展開が気になるでしょう…

が、本当に申し訳ありません。

私はもう、
トイレから戻ってきた一人客とこの旦那さんがぶつかる瞬間を、
見たくなかったのです。

あまりにもストレスだから。


もし一人客が気まずそうに荷物をしまって退店したら、
旦那さんはせいせいするでしょう。
でもそのせいせいしている姿も見たくなかった。

もし一人客が戻ってきてそのまま席に座って、
旦那さんの向かいで依然としてスマホを見続けたら、
もういよいよそのフォーメーションの意味が分からない。
旦那さん、奥さん、一人客、全員の意地の張り合い。
その三人で結ばれる三角形の中に居たら、
私は消滅してしまう。INGRESSみたいに。


心を守るために私は席を立った。

ちょうどその時、
トイレから一人客が出てきたのを視界の端で捉えたが、
旦那さんと鉢合わせる瞬間に、逃げるようにして出てしまった。

自分がご飯を食べていた席に、
知らないお客さんが急に座っている。
しかもどうやら怒っている。
そんな状況と直面する人の顔は見たくなかった。

ただ、私が店から出たあと、
続くようにしてその一人客が店から出てきたので、
おそらく、気まずくなって退店したのでしょう。

その姿を見た時、
きっと、空いてる時に店に入って、
ゆっくり広々と、一人で飲みたかっただけなのにね。
と、その一人客に寄り添った思考になった。

けど、奥さんと向かい合ってご飯を食べたかったのに、
一人客が四人席を占領するなと腹が立つ旦那さんの気持ちにも、
寄り添えた方が、心は落ち着く。

考えればどちらの味方にもなれるし、だからこそ辛かった。
そして何より、楽しみにしてたお蕎麦の味がしなくて、
イライラした。


そのすぐあとに楽しいロケの仕事があったので、
おかげでそのイライラを忘れることができたけど、

ロケが終わった帰り道、信号を待っているとき、
渡る先にさっきの蕎麦屋を見つけてしまった。

「あぁ…嫌なことがあった店だ…」と思い出して、
再び心が黒ずんでいく。


そのときである。
信号の向かいに、お腹をさすりながら
楽しそうに話している人がいた。

信号が青に変わるのを待ちながら、ずっとお腹をさすっている。

(あの人、お腹さすってる!)

私の心は少し晴れた。

というのも、私には、常にお腹をさする癖がある。
だからよく人に「お腹痛いの?」と聞かれ、
「いや、すみません、癖で…」と答えると、かなり変な感じになる。
その度に、みんなには無い癖なんだ…と落ち込んでいた。

だから、同じくお腹をさする癖がある人を見て、
「私以外にもいた!!」と嬉しくなってしまったのだ。


さらに信号を待っていると、
自転車に乗った子供がやってきて、停車し、
後ろにいたお母さんに
「お母さん! この自転車さあ、今度全部変えて!!」
と言った。

「なんかさぁ、ブレーキでギギッて言うしさぁ、うまく坂とか登れなかったりするからさぁ、今度、全部変えてよ!!」

新しい自転車が欲しいとかじゃなくて、

「全部変えて」

という発言がなんだか面白くて、さらに心が晴れた。
お母さんの気持ちを思うと複雑だけど。

お蕎麦屋さんを見つめる私の近くで起こった
そんな2つの些細な出来事により、
嫌な記憶が上塗りされた。

またあの店で、
今度はちゃんと美味しいお蕎麦を食べたい。



ただ私自身、ネットには常に、
スカッとジャパン的な物語を欲しているため、
このようなモヤッとした結末を迎える話をしてしまったことに少し罪悪感を感じています。

もしモヤモヤしている方がいたら、
関係ない画像を貼るので、忘れてください。


酔っ払いながら、「ひまわりみたいだな」と思って撮ったチヂミ!
翌朝起きてシラフの状態で写真見たときも、
「ひまわりみたいだな」と思ったので、
酔った時の感覚って正しいんだなと安心した。


広告に書いてある文言的に、
未来に向かって歩んでいくという表現なのは分かったけど、
なんで波打ち際に向かって歩いてるんだろう? と思った。
そのまま歩み続けても、四人で海を眺めるしかないのではないか。
でもすごく綺麗な写真。


豆乳大好き。でも牛乳も好き。
だから、こんなグラフで牛乳とライバル的な構図を作らなくても、
どっちも愛したい、と願った。


左下に、「Photo Spot」と書いてある。
ポーズ次第で、エースストライカーになれるらしい。
自販機に向かって蹴りを入れてる人か、
エースストライカーになれるかどうかは、写真の腕による。

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