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奇跡的に?

カフェでトイレに入ろうとしたら、
手を洗うスペースで、屈んでいる女性がいた。

体調悪いのかな? 大丈夫かな、と思ったら、
スマホのライトで床を照らしている。

何かを探している。
すごく、何かを探しているなぁ。

その人があまりにも何かを探していることが明白だったので、
「一緒に探しましょうか?」と声をかけようかと思ったが、
こういう時、自分がこの女性だったら、
「誰も私に構わないでください、無視してください!」
と願っているだろうなと思ったので、一旦スルーしてトイレに入った。


私がトイレから出ても、その人はまだ屈んでいた。


さらに、床のタイルとタイルの隙間を、
何か硬いもので、ガッ、ガッ、とこそいでいた。


物を探すのに、床をこそいでいる……?

私は手を洗いたいし、
そのためにはこの人に一回どいてもらわなくてはいけないので、
さすがに「何か探していますか?」と声をかけた。

「一緒に探しましょうか?」と手を貸すつもりが、
(何を探してるんだろう)という疑問の方が勝ち、
「何か探していますか?」と尋ねてしまった。

するとその人は、
「見つかりました! 奇跡的に」
と言って、立ち上がった。



奇跡的に?



私は「よかったです」と言うしかないので
そう声をかけながら手を洗うと、
その人は、「はい、奇跡的に!」と言った。



はい、奇跡的に?


「奇跡的に」って、
何を探しているのかも知らない初対面の私に、2回言った。


どれだけ奇跡的なんだ?


手を洗いながら、
「何が見つかったんですか?」と聞こうかと思ったが、
それを教えてもらうには、私と彼女の間に関係性がなさすぎる。

「奇跡的に…」と私はぼやき、
あまりこの場所に留まるのもおかしいので、
その場を離れてテーブルに戻った。


トイレを出る瞬間、彼女の手元をサッと見たが、
小さな、筒状のものを持っているように見えただけで、何もわからなかった。
最初、コンタクトレンズを探しているのかなと思ったが、
手に持っている物の大きさ的に違っていそうだったし、
コンタクトレンズを拾うにしては床を強く、こそぎ過ぎていた。

こそぎ過ぎていた?
そんな言葉初めて書いた。



夜、眠る前にそのことを思い出し、
「あ、私ってあの人が何を探していたのか、一生分からないんだ」
と思った。


ベッドの中で、「一生」を考え始めると私は終わってしまう。


「一生」から連想して、
死とか、宇宙とか、そういうことを考え始めてしまって、

うわ、私っていつか絶対死ぬんだ、うわ、うわ、うわ
そのまま、得体の知れない恐怖が溢れ出し、
「ウワァァァアアー!!嫌だぁーー!!」と実際に叫んでしまう。


あとで冷静になって、
外にその叫び声が聞こえていたらどうするんだと思う。
人の家から「ウワァァァアアー!!嫌だぁーー!!」
って聞こえてきたらすごい心配になるよ。
まさか、未来の死に怯えている人間の叫びとは思わないよね。ごめん。


叫ぶという行為でしか解放できないほどの
死への恐怖に襲われながら、

一生、あの人が何を探していたのか知れないって怖い!
聞けばよかった! 一生だぞ!
一生、あの人が何を探していたのか知ることができないなんて!
奇跡的にって、なんで私に2回言ったんだ!
なんで床をこそいでいたんだ!
そもそも、スマホのライトで照らさなくてもいいぐらい、明るい場所だった!


怖い!

ウワーーーー!!!!!!!!
いやだーーー!!!!!!!!!!!



気がついたら眠っていた。

朝、いや昼に起きて、「なにも怖くない」と思った。


それでも気になる。
あれが、なんだったのか。


探し物をしていたあなたへ。
もし奇跡的にこの日記を読んでいたらば、
ご連絡をください。

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