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音が引き戻す記憶

 日が暮れて車を走らせながらラジオを聴いていた。懐かしいクラッシック曲が流れてきた。
有名な作曲家の有名な曲。様々なオーケストラがコンサートで演奏しているその曲は、私だけの思い出の曲ではない。誰にでも何かしら、曲に絡めた思い出はあるのだろう。

 ふと思い出したのは、指揮をしていた先輩のこと。私は音楽のことは何もわからずメンバーになり、演奏するというより、周りの音楽を聴くためだけに椅子に座っていた日々。朝は自主練習だったから当然私は出ていなかった。
授業に間に合う時間にのんびりと登校すると、いつも中庭の決まった場所に譜面台を置いて指揮の練習をする先輩の姿があった。すらりと背の高い長い手の先輩は後輩達の憧れだった。
声を掛けられただけでドキドキしてしまう、遠い存在だった。
 
 そんな遠い存在だった先輩に一度だけ二人きりで飲みに連れて行ってもらったことがあった。
私は調子に乗って飲みすぎてしまって、先輩の下宿先で休ませてもらう羽目になってしまった。
記憶を無くしたわけではなかったが、吐き気におそわれ、何度トイレに駆け込んだか。

蒸し暑い夏の日だった。

なぜクラッシック曲を聴いて、ここまで思い出したかと言えば、その曲を初めて聴いたのが、部活に入ってからで、その先輩が指揮をしていたから、私の記憶には、その曲と先輩が結びついているのだ。
そして更には、初めての泥酔体験にも繋がってしまっている。

先輩のことはうわさでは聞いたことがあるけれど、あの時以来会っていない。
爽やかとは言えない思い出だ。