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sakurasaku369
梅雨時に想う
初めて上高地という場所に連れて行ってもらったのは、6月の梅雨の頃。まだ祖母も元気だった小学生の高学年の時だった。新緑の中の澄んだ水、子どもだった私の心にも、その美しさは感動的だった。
山を挟んだ土地に遠縁の親族が暮らしていた事もあり、高校生の夏休みの終わりに一人でも上高地に行った。
当時はまだ普通車が通行できたので、バス停でバスを待っている時に、通りかかった中年夫婦に声をかけられ、駅まで送ってもらった。
それを素直に好意だと受け取れるほど、私の心は純粋だった。
成人してからもふらりと一人で出掛けた事があった。忘れな草のような可愛らしい花が岸辺一面に咲いていた時に。まだ結婚する相手とも出会っていなかった頃のこと。
あれから結婚して以来一度も行っていない。行こうと思えば行く機会はあった。それは多分今も。
もう景色は初めて行った時とは随分変わっているのだろう。
独身の時以来、また行きたいと思いつつ叶えていないが、私が独身の時に思っていた事が叶っていないことに、梅雨空の中でふと思い出した。
まだ誰と結婚するかもわからない時に描いた憧れ。
新婚旅行には、上高地帝国ホテルで一週間滞在したいということ。どこにも出かけず、自然の中で、ただひたすら共に苦痛なく過ごせる人と共になりたいと。
20代そこそこで描いた憧れ。
私はまだそれを叶えてはいないのだ。
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