サインを求めるおじさん

ちょっと声を掛けられるとかその程度のことは抜きにして、
記念すべき本格的変質者初遭遇は小3の時に新幹線の中で。

小2から一人で新幹線移動を始め、
最初の頃はおばちゃんとか安全そうな大人の近くにこっそり居るよう母から言われていたので大丈夫だったんですが、
小3になると慣れてきて、当時身長120cmのくせに もはや自分は大人くらいに思っていて堂々と一人で居るようになりました。
二週間に一度、水曜日の昼前に新幹線に乗るんですが、
自由席なのでひかり号は平日でも出張らしきサラリーマンとかそれなりに乗っていて人が多く、いつもこだま号に乗っていました。
人が少なくてゆったりしていて、帰りは夕方だけど行きはみんな学校に行ってる時間なので王様気分で5/8チップを食べながら快適な時間を過ごしていました。
飲み物はオロナミンC。
いつも1号車の真ん中に乗っていて、たまにわたしだけで貸切状態の時間があったりして、晴れてる日はリゾート地に行ったくらい良い気分でした。
リゾート地行ったことないけど。
ひかり号ではありえない。

そしてある日の行き時、乗車して落ち着いたところで知らないおじさんが『隣、空いてますか?』と聞いてきた。
貸切状態ではないけどガラガラの車内で。
空いているので空いていると答えると隣に座り、
『将来あなたが有名になった時のためにサインをください』
と言われた。

え。

平日の昼間に新幹線乗って何してるのかとか年齢とか聞かれた覚えはない。

基本的に誰にでもちゃんと返事をしてしまうので人からよく怒られるんだけど、
『そんなこと言われてもサインなんかしたことないし』と言うと、
『大切にしてる物にサインしてほしいんです。ペンはあります!』と言われ。
いや、そういうことじゃないし。。。と思っていると、
『ここに書いてください!』と終始敬語で言いながらズボンの中から白いブリーフであろう布を胸の辺りまで引き上げた。
幸いこだま号は各駅停車なので次の駅のアナウンスが流れて、1駅しか乗ってないのに『次で降りるんです』と言ってドアまで逃げたら当然ついてくる。
なぜか一緒に降りた。

そして発車直前に一歩後ろのドアから新幹線に乗り込んで、ドラマに見る警察から逃れる犯人のようにわたしは逃げ切った。
ホームに残された彼はどうやらわたしが再び乗り込んだことに気付いていないようでホーム内をキョロキョロ見渡していて、
わたしは謎の達成感を味わった。
わたしは勝負に勝ったのだ。

子どもの頃から少し[ こわい ]という感覚に欠けている気がする。
何を言っているのかわからない父のおかげか、この人は何をどう思っているんだろうかと考えてしまうところがあるのでパニックになりにくい。
なので、怒っている人を余計に怒らせてしまうことがある。こんなに怒っているのにあまりにも冷静で腹が立つらしい。
夜中に道端の吐瀉物を見ると、吐いた人のアフターファイブの行動と飲食物を勝手に想像し、
勝手に『頑張ったんだろうなぁ。全部吐き出せたんだろうか?』と不憫に思ったりする。

まぁまぁな数の変質者に出会いながらすっかり大人になった今思うのは、
絶対にそのパンツの中身のほうが大切なものに決まってるのに下着にサインをさせるって本当に変態だなということ。
ソレが触れる部分にサインがあることで大興奮するんだと思う。
変質者は直接的でない場合がほとんどな気がするし、変質者なりの美学があるんだろうなぁ。
真面目に対談してみたい。

翌年わたしは居候の女の子とサインの練習をした。いつ求められてもいいように。
どんなだったか忘れてしまったけど芸名を考えてそのサインの練習をしていたので一度も披露することなく今に至りますが、
一年前くらいに親しいおじさんから色紙を出されてサインを求められ、爆笑しながら普通に平仮名でフルネーム書きました。
二つ折りの色紙で、半分にわたしの写真を貼って保管しておくそうです。
全くもって意味がわかりません。

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