覗くおじさん

サインを求めるおじさんに続いての変質者も新幹線の中。
翌年の4年生だったと思う。
行きの新幹線でいつものように1号車の2列の席に座ったら、ガラガラなのに横の3列シートに座ってきたおじさんがいて、
せっかくガラガラなのに嫌だなぁと思って移動したら少ししてまた同じ並びに来る。
すごく嫌なので2号車に行ったらまた来る。
嫌すぎて車掌さんに伝えると指定席の空いてる席に座らせてくれて、もう追いかけてこなかった。
何かされたり微笑みかけられたりされたわけではないので、初めての指定席に最低料金で座らせてもらえて喜んだだけの話。
急に大人になった気がしたし、母に自慢した。

新幹線での話はもうひとつあって、
中学生になり寄り道してて帰りの新幹線に乗る時間がすっかり夜になってしまった日のこと。
車内では帰宅途中と思われるスーツのおじさんたちの多くがビールを飲んでいてそこそこ人も多かった。
わたしはいつも乗ってしばらくしてから駅弁を食べながら帰るんだけど、(人の乗り降りが少ない駅付近を狙って)
駅弁を食べ始めてから何か気になって横を見ると3列シートの通路側に座っているおじさんが新聞紙に穴を開けてこちらを覗いていた。

わぁ凄い。目が見えてる。
漫画でしか見たことないよ、それ。
曾祖母がぼけて障子に火のついた線香で穴を開けてたのは見たことあるけど。

新聞が邪魔になるから通路を向いて読んでます風にこちらを向いていた。
これだけ人多いと変なことはしてこないだろうし、中学生にもなると変質者耐性が増してしまっていたし食べ始めてしまっていたので知らん顔して食べていたら、
コンカンコーン!と音が鳴って3列シートの窓側へ転がった空き缶を拾っていた。

こちらに転がそうとして失敗したのか、ここにいるよ とアピールしたかったのかどちらかだろうなと思いながら引き続き知らん顔で食べていた。
まだ青山テルマはデビューしていなかった。
また新聞を開いて覗いてくるおじさん。

最初は気付かなかったけど、おじさんの存在に気付いてからは夜なので顔を背けると窓に映ったおじさんも見てくる。
目玉まではハッキリ映っていないけど、見てる。
せめて自分と重ねてわたしからは見えないようにしようと頑張るんだけど、おじさんの座高が高いので実物か窓のおじさんかどちらかが絶妙に視界に入ってくる。
少ししておじさんが新聞を閉じてまた何かを落とした。

ゆで卵だ。

落とした瞬間殻が潰れるのでうまく転がらずに通路の真ん中で止まっている。
空き缶はすごい音がしたからやめたんだろうな。
きっと空き缶もこちらへ転がしたかったんだろうな。

あ、食べるんだ。

落としたゆで卵を拾って殻を剥いて食べていた。
わたしの中ではもう爆笑事件になっていて、駅弁の味がしない。
笑ったら負けだ。
素知らぬ顔で食べる。
紐を引っ張ったらスチームで温まる駅弁は、車内でモクモクなって恥ずかしかったので一度だけでやめました。
どうでもいいね。

結局、30分以上覗かれていてオジサンは先に降りていったけど、
降りる時に「よかったらどうぞ」と残ったゆで卵をネットごとくれた。

駅弁食べたし、いらんし。
食べ物の神様ごめんなさい、捨てました。
とても気持ち悪い去り方をされた。

どちらもしっかり変質者だと思う。
悶々とするのが好きなんだろうね。
でもちょっとだけ気付いてほしいんだろうね。

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