靴の傷は見えない
どんな道を歩いてきたのか知らないが、
私の靴は傷だらけだ。
気がつかないうちに、どこでこんな傷を
つけてきたのかすら思い当たらない。
ふと、目の前の信号待ちの人の革靴
やけに綺麗じゃないか
などと羨ましく感じたりもしながら、
けれど、彼の革靴の中から覗く靴下が、
変色していることにも気付く
あれは雨水で濡れてしまった跡なんだろうか
勝手に傷をつくる靴もある
あえて砂利道を勇ましく歩いては傷をつける革靴もある
水溜りに突っ込む革靴もある
それなのに
どうしてだろう
この無機質な蛍光灯の下
誰の靴の傷も、
ひとつも見えてこないのは
靴の傷は見えない
靴の傷は誰にも見えない
明日も明後日も
小さなひっかき傷をつけながら
私は私の為の靴を履く
あなたはあなたの為の靴を履く
この世界の重力の為に
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