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現代の鷹狩り

鳩対策の新兵器?

 わが家は築45の古マンション。今秋、4度目の大規模修繕工事が予定されている。あちこち老朽化しているのだから、工事による騒音や人の出入りなど、煩わしさは我慢しなければならない。ところで、われら住民が長い間悩まされているのが鳩の被害だ。ただ飛び回るだけならいい。厄介なのはベランダの物置の下などに住みつき、卵を産み、親鳥だけでなく仲間も集まってくる。彼らのまき散らす糞は洗濯物を汚したり人のからだに付いたりする。鳥インフルエンザの心配もある。
 住民たちは独自に鳩の侵入を防ぐネットを張ったり、鳩を止まらせないよう剣山のような工作物を設けたりしている。だが帰趨本能が発達した彼ら。懲りずに集まってくる。鳩は年に四、五回卵を産むというから、始末に悪い。動物保護法で勝手に捕獲、処分することも禁じられている。
 こんな住民の窮状を救ってくれたのが、一羽の鷹だ。3月初めだったか、皮を巻いた腕に鷹を止まらせたある若い女性がマンション下の道を歩いているのを目撃した。彼女は鳩がいそうな上層部分を見上げると、鷹を放つ。やがて彼女がカチカチと何かの音を鳴らすと、鷹は‶手ぶら”で腕の上に戻ってくる。彼の仕事は鳩を追い散らし、二度と集まってこないよう脅すことにある。褒美に餌が与えられる。こんな行動を数回した後、彼女と鷹は去っていった。現代の鷹狩り、まさに女鷹匠である。
 実は、筆者は今年初めテレビの旅番組で、ロンドンのトラファルガー広場で鳩被害防止の鷹狩りをしている様子を見て、いかにも英国らしい光景だなあと感心したのである。ロンドン市の事業で、週に4回ほどこの鷹狩りをやっているそうだ。この鷹狩りが日本、しかも我がマンションでもやっているとに驚き、二度感心した次第。
 鷹狩りとは、鷹を狩るのでなく、飼い慣らした鷹を放って他の鳥やウサギなどを捕獲することで、その鷹を扱う人間を鷹匠だ。アジアの遊牧民の間で紀元前から発達した狩猟法で、その後欧州の中世貴族の娯楽として取り入れられた。英国はその本場でもある。日本にも古くからあり、徳川家康などは愛好者としてよく知られる。静岡の駿府城跡に建つ家康像は、家康の腕に鷹が止まっている。静岡市内には鷹匠が多く住んだ「鷹匠町」もある。
 鳩被害対策という形で復活した鷹狩り。我がマンションの狩りの成果はどうだったか。3か月間、計8回の出動で、捕獲した鳩は73羽。今のところ効果てきめんで、鳩の姿はほとんど見られなくなった。いつまた戻ってくるか心配ではあるが、大規模修繕工事が実施されれば、一層寄り付かなくなるのことを願っている。
 さて、捕獲した鳩の運命は? 鳩の肉は赤身肉で、レバーのような濃厚な風味があり、疲労回復の食材としてお勧めとか。中国・香港では普通に食べられているそうだが、筆者はお断りしたい。我がマンションの管理員は嘘か冗談か、捕獲した鳩はあの鷹の御馳走に供されるとか。喜ぶべきか悲しむべきか。どうする家康?   (令和5年3月31日記)


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