フォロワーで勝手にファンタジーSS①

この設定をもとに、ショートショートを書き殴りました。
本編いきなり始まります。

②はこちら

人格とかは基本的にその人のイメージなんですけれど、背景設定とかはもう完全に手癖というか、あんまり本人とリンクしてないですすみません。

――――――

 今回の戦いは、帝国軍の方が兵力が少ない。今回攻め入る砦よりも、本命のほうに戦力を割いているからだ。
 それは王国軍も同様で、迎え討つ彼らも、王女のいる本隊ではない。しかし本隊ではなくとも、粒ぞろいの王国軍を相手に生半可な軍力では負けてしまう。
 かの軍師曰く、勝たなくても良いという。敗けなければそれで良い。時間を稼ぎ、砦に圧をかけ、王国軍に選択を迫る――それが今回の砦侵攻の目的だった。

 とはいえそんな目的は、彼女にとってはどうでも良いのである。

 正面が戦闘を開始したのを見届けて、ららは華麗な身のこなしで裏道から砦の塀に跳び乗った。そしてそのまま見張り台へと駆け、砦を一望する。
 ざっと見た敵の数や砦の構造を、魔道具を使い司令官に連絡した。
 目的の場所も簡単に見つかり、そちらへ向かおうと、塀の内側へと下りた時だった。
「やばっ」
 砦内を移動してきた小隊に見つかってしまった。
 こちらに気付いたのは五人。先手を打てばなんとか――
「余計な魔力は使いたくないけれど!」
 魔力の出力を上げる。途端、周りの世界が遅くなる。
 「相棒」を構え、遅くなった世界の中で、ゆっくりと銃口を向ける。実弾は要らない。
 引き金を引くと、魔力の火花が散る。
 次、次、次。
 単調なリズムに乗せて、引き金を引く。
 魔力の弾丸はゆっくりと兵士たちの眉間に吸い込まれていき、脳天を撃ち抜く。
 出力を戻すと、兵士たちは全員、その場に倒れ込んでいた。

「遅すぎ、弱すぎ――へえ、それでも訓練された兵士たちなんだ」

 そうはいっても、余計な魔力を使わされたのには違いな。そのことへの多少の不快感を抱いた。魔力の残量は、元よりあまり余裕があるわけではなかった。
「さっさと終わらせてしまえばいいだけなんだけれど……こんなことなら素直に水瀬のとこ寄ってからくればよかった」
 でもまあ、と零し、先を急いだ。
 やれると判断したのは自身であり、できない任務は受けない。尤も、ららにとってこなせない任務など無い、やるだけだ。

 * * *

 戦いが始まったようだ。兵士たちの鬨の声が聞こえる。
 怪我人が運ばれてくる前から、治療テントではやることがたくさんある。
 ななせは、備品やほかの班員の配置をひとつずつ確認していた。
 今日は風が無く天気が良い、とほかの班員が話している。
 ひとによっては、戦場でそんな暢気な会話を、と叱る人もいるが、ななせはむしろ逆だった。
 怪我人が運ばれてきて忙しくなり、目の前で誰かが死ぬこの戦場で、話せるなら今のうちにしておいた方が良いと思っている。
 それこそが平穏の証なのだと。
 だからななせは、そんな班員たちをのほほんと眺めていた。
 しばらくして、負傷兵が運ばれてくる。
 傷の受け方によっては、戦いがトラウマになることもある。
 または、動けるはずもない身体で、それでも再びと戦場へ向かおうとする者もいる。
 ななせは、そんな兵士たちを何人もその眼で見てきた。
「大丈夫だよ~、すぐに痛くなくなるからね~」
 身体の傷だけでなく、心にも傷は残る。
 だから、せめて少しでも癒しになればと、ななせは笑顔を絶やさない。

 さて、と次の治療に移ろうと思った時だった。
「動かないで! 抵抗しなければ、命まではとらないわ」
 そんな声が聞こえたかと思うと、入り口にいた班員が、何者かに銃口を突き付けられていた。
 鋭い緊張が、テントに満ちていく。
 そんな中、ななせはあることに気付いた。この声、まさか――
「らら、ちゃん……? うそ……」
 声の主は、その言葉に反応し、ななせの方に視線だけを向ける。
「……いまは兎月、そう名乗ってる」
 ある悲しい事件のあと、ららはななせの前から姿を消したのだった。
 いつかきっとまた生きて会える、そう願っていたが――まさかこんな形で再会するなんて。
「生きてたんだね、良かった……」
 でも、親友が生きていたことが、ななせは心の底から嬉しかった。
 そんなななせの笑顔を見て、ららは絶望した表情を浮かべる。
「……無理、ななせを殺すことなんてできない――」
 ららは、その手の銃を力無く下ろした。
 その瞬間、抑えられていた班員がななせの元へと駆ける。
 怖かった、と泣き叫びながら、ななせに泣きついた。
 ららの顔を見ると、何かを言いたそうな顔をしていたが、口は閉ざされたままだった。
「……今回は見逃してあげる」
 踵を返しそう言い捨てると、ららはどこかへと消えていった。
 お互い無事でまた会おうね、ななせはららがそこを立ち去ったあとも、そう願い続けていた。

 * * *

 ららは味方に合流しようと、事前に決めていた退路を行く。
 任務はこなせなかったが、任務なんてどうでも良い。
 ななせを撃つことなんてできない。ららは自分の手が震えていることに気が付いた。
 敵を前に引き金を引けなかったのは初めてのことだった。
 一度このまま帝都に戻って休もう。水瀬のとこにもちゃんと寄ろう。
「皇女殿下にお叱りを受けるのは癪だけれども」
 身を隠しながら戻っていく。
 しかし、退路に敵が多く、退くまでにとても時間がかかる。
 ……ここまでは味方が制圧できている想定だったけれど、それにしても時間がかかりすぎじゃない?
 何かあったのだろうか、と一度ゆっくり戦況を分析する。
 すると、驚いたことに敵の数が増えている。
 まさか帝国がこんな砦ひとつを攻めあぐねている……?
 退路が満足に確保されていなかったのは、そのせい……?
 まだ震えが止まらないこの腕と精神状態だと、今のららは満足に戦えない。だから見つかるわけにはいかないが――
 しばらく息をひそめて様子を伺っていると、ららはあるものを目にした。
 王国兵が掲げている旗とは別に、もうひとつ別の勢力の旗があった。
 その途端、身体の震えは別のものに変わり――怒りの感情が胸を満たす。
「教団……?! あいつら、こんなところにまで介入してくるなんて……!」
 そう、教団こそが、ららの真に戦うべき敵だったのだ。

「おい、誰かいるぞ!」
 また見つかってしまった。
 でもどうでもいい。
 こんなやつら、さっさと蹴散らして――
 ららの眼にはもうあの憎き旗しか映っていなかった。

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